僕は顔を上げ、美凰の身体から少しだけ離れる。
上から見おろした美凰は、薄紅色にほんのり染まった眦からまた涙を零していた。
「よく泣くね。そんなに僕に抱かれるのがいやなの?」
「ち、違います…」
「だったら泣くことないでしょ…。泣かないで…」
「で、でも…、う、嬉しくて…」
「えっ?」
「嬉しくて…、泣くことも…、ありますわ…」
「……」
可愛い、可愛い、可愛い…。
僕は片手で美凰の秘処を弄りながら彼女の耳元にもう片方の手を突き、顔を覗き込む様にして可愛い言葉を囁いた唇にご褒美の接吻を重ねた。
その内、美凰が僕の唇を舐め始める。
ほんの少しだったものの、最初に比べればかなりの進歩に思える。
もう一度接吻をして、僕は美凰の口腔内に舌を押し入れてみた。
美凰はくぐもった苦しそうな声を漏らしながらも、僕の舌に自分から舌を絡めてきた。
可愛い、可愛い、可愛い…。
僕は一旦、唇を離した。
自分の口の端をつーっと滴る銀の雫がいやらしく僕を煽り立てる。
僕はぺろりと唇を一舐めするや、ぬるぬると蜜音を響かせる美凰の秘処に指を進めた。
「ひゃあぁぅ…」
高い声で鳴いて、反射的に膝がびくんとなる。
美凰の両足の間に割り込ませた僕の身体に、その振動がなんとも心地よかった。
「挿れるよ。平気だね?」
「は…、はい…」
小さく頷く美しい顔は羞恥の余り、手の甲で覆われる。
「駄目。顔、よく見せて…」
「……」
「君が感じている顔をちゃんと見ていたい。隠さないで…」
「……」
苛めている様にも思えるが、どうしても眼に焼きつけておきたいのは僕の我侭なのだろうか?
美凰は手の甲で眼元を覆ったままである。
「僕を見て…。君に拒否権はないよ…」
「……」
唇を噛みしめつつおどおどと僕を見上げる美凰に「じゃあ、挿れるね。もし痛くても…、すぐによくしてあげるから我慢するんだよ」と言って花園の奥に食指を挿入した。
「ひっ…、くっ…」
美凰の身体が跳ね、蠢く肉襞が僕の指にまとわりつく。
きゅっと締めつける感覚はきつくて熱い。
うぞうぞと蠢いて僕の一指に絡みつき、滑滑した感触が指を究極の収縮に包み込む。
「わぉ…、凄いよ、美凰…。まだ、いけるよね?」
「うっ…、ひぅっ…」
僕は吸いつく様に収縮する内壁に指を擦りつけて高指も差し込んだ。
「はっ! はぁうぅぅぅっ…」
淫猥な蜜を溢れ零しつつ、美凰の背中がくっと反り返る。
その反応がまた嬉しくてたまらない。
艶やかな半開きの唇から漏れる声や吐息が悩ましい。
ここに至ってまた僕の頭の中には“美凰が好きだ”という、苦しいまでに愛しい想いが爆発しそうになる。
まるで“好き”とか“愛しい”とか“恋しい”とか…、そんな想いだけが僕の胸を濃厚に圧縮しているみたいで、頭がおかしくなりそうだ。
眉根を寄せて荒い呼吸を繰り返す美凰を、一歩引いた処から見てあげることが出来なくなるのが可哀想だった。
僕は…、この愛しい美凰を単に壊してしまいたいだけなのかも知れない…。
時々、僕自身がよく解らなくなる…。
二本の指で膣壁を擦りあげて秘肉をかき混ぜ、美凰の性感帯を探索する。
こういう時、美凰の身体はとても正直で解りやすい。
僕としては、非常なる優越感を感じるのだ。
いい箇処を集中的に弄んで、一度いかせてやる。
その後からの方が、僕の快楽が寄り一層深くなるのだから。
でも美凰はどうなんだろう。
何度も何度もいき続けるのは辛いのだろうか?
最近はそんなことを考えるゆとりも出来たのだが…、よく解らないけど、きっと嬉しいに違いない。
それともこれは僕の勝手な思い込みで、美凰にとっては本当は辛いことなのだろうか?
学習院時代からの友人である六道や極寺、それに山本が言う様に、僕は大凡自己中心的で意地悪な男なのだろうか?
男の身体と女の身体はつくりが違うし、体力も違う。
書物によれば性的な快感を受ける度合いも違うものらしい。
其の手の文章を読んでも実際にはよく解らない。
そんなことは誰も教えてはくれないし、他人に聞くのは僕の矜持が許さない。
なにより僕は、美凰以外で男女の情意を得ようとは思わない。
「恭弥さま…、ああ、恭弥さま…」
美凰は僕の名前を小さく呟き、甘ったるい女の声で喘ぎ始める。
中に挿れた指で奥の方まで突いてやると、美凰の背中が大きく撓った。
「やっ! あぁぁっん! ひぁぁぅぅっ!」
「いきそうかい? ん?」
「恭…、弥、さ…」
「いって、美凰…。僕の指でいって!」
「あっ、あっ! い…、ひっ!」
「いくんだよ…」
「ぁくっ! っ!!!」
卑猥な蜜音が僕の耳に心地よく響き渡る。
その後すぐに、語彙が解らぬ悲鳴があがって美凰ががっくりと崩れ落ちた。
美凰の中は蕩けそうな程熱く、より強い収縮で僕の指を締めつける。
達した美凰は柔らかな肩で息をしながらまた涙を零していた。
さっき美凰が言っていた“嬉しい”という涙であればいいのだけれど…。
僕は一度指を抜き、そのぬらぬら光った指先を緋色の長襦袢で適当に拭った。
錯覚だろうけど少しふやけた時の様に、触覚がじんじんしている。
弱ってしまった美凰の頬に接吻をした僕は「もう一度、いこうね…」と耳元で呟いて乱れ散っているつややかな髪を撫でつけた。
白い頸筋や額に汗で張りついた黒髪が、淫猥さを妄想させる。
美凰の姿には清純な初々しさと、どことなく妖艶な雰囲気が相俟って漂っている。
初心な美凰も艶冶な美凰もどちらも気に入っているけれど、その妖艶さに妙な虫まで寄りつきそうで少し怖い。
無論、僕がいるからにはそんな汚い欲望に塗れた虫達は近寄らせないが…。
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