好きで好きで好きで…、どうすればいいのか解らなくなる…。
二年もの間、想いを寄せ続けていた美凰を手籠め同然に手に入れた、十九歳になったばかりの僕…。
当時は覚めない夢の恋に酔っていたのだ…。
僕の命令で十五になった翌月から一人部屋を与えられた美凰。
乳母の千鳥は僕の行動に懊悩していた様子だが、そんなことは知らない。
知ったことではない…。
質素な布団の上に組み敷いた美凰に、酷く荒い接吻を何度も繰り返す。
「若さま…、怖い」と、一言漏らした美凰がそれでもまだ愛おしい。
大好きな筈なのに、可愛い美凰に怖い思いさせてまで、自身の飢を満たしたいのかと思うとぞっとする。
そんな野蛮で、そして卑俗な人間にはなりたくないと思っていたのに、抑制できない想い…。
柔らかな頬をぽろぽろ零れる真珠の珠を接吻で食むと、塩辛い筈の涙でさえ甘く感じる。
美凰が泣いてる…。
僕は美凰の頭を抱える様にして支え、今度こそ額に優しく唇を寄せた。
「若さまじゃないって言ってるでしょ。『恭弥』って呼ぶ約束…」
美凰の腕がおずおずと僕の背中に廻され、ぎゅっと抱きしめてくれる。
そして美凰は小さな声で「恭弥さま…」と僕の名前を呼んだ。
返事をする代わりに、僕はほんのりと紅潮した美凰の耳朶を甘噛みしたり舌でなぞったりする。
美凰が僕を抱きしめる腕に強い力がこもって、柔らかな肩が小さく竦む。
「力、抜いて。大丈夫だから…」と耳元で囁いても美凰の身体は強ばったまま、緊張が解けない。
ああ、なんて可愛いのだろう…。
何度接吻しても、初めての時の様に愛らしい顫えが伝わって来る。
枕を交わす時も似たり寄ったりで、何度身体を重ねてもいっこうに初々しさを失わない。
いつもすぐに息が上がって、歯の根が合わない程に固まり顫える。
恐怖と快楽が混沌となっているのだ。
ささやかな抵抗も非力なもの。
そんな弱弱しさで僕を退かすことなど、出来はしないのにね…。
美凰の耳の孔に舌を差込みつつ、衣類の上から肌を撫でると、柔らかな肢体はきゅうと身を縮めたがる。
僕はいつも、それを阻まねばならない。
「ああっ! あっ、あぁ…」
「……」
言葉にならない声が漏れる。
息苦しそうに喘ぐ声。
浅く息を吸い込んでも、すぐにあの甘く耳を刺激する声と一緒に吐き出してしまうのだ。
ああ、愛しい…。
たまらなく愛しい…。
好きだ、美凰…。
僕は君が大好きだ。
愛しくて恋しくて、寝ても覚めても片時も忘れられない。
いつも繋がっていなければ気がすまない程に美凰を愛している。
まるで阿片中毒の様に、君に耽溺(おぼ)れているのだ…。
仔猫の様に柔らかい身体を弄くりながら唇に接吻をする。
重ねるだけの接吻じゃ足りない。
羞恥に顔を背けた美凰の顎を掴んで無理やり接吻をして、閉じられた唇を強引に割って舌を入れる。
整った歯列を舐めて、逃げたがる美凰の舌に自分の舌を絡めて吸う。
熱くて、少しざらついて、そして滑滑した他人の舌の感触など、はっきり言って心地良いものではない。
愛している美凰以外に、そんな行為したいと僕は思わない。
『愛』ってなんだろう?
『愛』は怖い…。
僕は息継ぎできなくて苦しそうに涙を零す美凰に少しだけ時間を与え、息が整ってきた所でまた角度を変えて唇を重ねた。
柔らかいふわりとした芙蓉花の唇。
開きかけの花びらから漏れ伝う一筋の銀の雫を舐め、何度も接吻を繰り返す。
紅潮した美しい頬と熱を帯びてきた身体がとても艶やかだ。
僕の愛撫にいちいち反応しているくせに、乱れまいと懸命に自制している姿がたまらなく可愛い。
僕だけがこんな風に美凰を乱すことができる。
ああ、僕はなんて幸せ者なのだろうか…。
張りついた美凰の額髪をかきあげて、そのまま頭を撫でる。
ぎゅっと眸を瞑って唇を噛みしめている姿が愛しい。
まだ怖いの?
それとも…、もっと欲しいの?
僕は質問を投げかける代わりに、眼にも艶やかな緋縮緬の長襦袢の袷に手をかけた。
僕に抱かれる時に必ず身に着ける様にと買い与えた女の絹…。
緋色の上から少し弄んだだけなのに、美凰の全身からは力が抜けきっていた。
浅くて速い美凰の呼吸音が静かに僕に沁み入る。
袷を剥き開いて練絹の様な肌を露にする。
十五という歳のわりに成熟された肉体。
ふんわり膨らんだ乳房を掌に包み込むと、また美凰の肩が顫えて竦められ、甘い息が漏れた。
直に触れた美凰の肌の温度は、僕の掌と同じくらい温かい。
柔らかな女の身体をした美凰の胸元に顔を寄せた僕は、白い膨らみにきつく吸いついた。
美凰の身体がびくんと跳ね、反射的に廻された白い繊手が僕の後頭部を抱き寄せる。
なんて可愛い仕草なんだ…。
美凰は時々、荒い呼吸の合間に「あっ」とか「うっ」と声を漏らし、僕の髪を遠慮がちに掴む。
突っ張った足先と甘く上擦った、どこか焦燥感を帯びた美凰の声が快感の興奮を感じさせる。
美凰に快楽を与え、欲望を刺激しているのはこの僕なのだ。
そう考えるだけで興奮に眩暈がすると言えば、僕は異質に属するのだろうか?
だが、僕の心が幸せを噛みしめている事は間違いないのだから仕方がない…。
僕は美凰の乳房や乳首に何度も何度もくちづけたり甘噛みしながら、片一方の手で身体をなぞっていく。
僕の髪を掴んでいた美凰の手に力が入り、堅くなる。
乱れた長襦袢の裾から中に手を滑り込ませ、二布を手繰ってむっちりとした腿の内側に指を這わせると、びくんっとまた身体が跳ねて、美凰は小さく悲鳴を上げ「恭弥さま…、恭、弥さ…」と何度も呼吸の合間に僕の名前を呼んだ。
無意識であろうと嬉しい反応だ。
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