自分の身体が自分から切り離されてしまった様な、どこかに飛んでしまったかのような感覚…。
恭弥さまの眼の前で、わたくしの秘処は淫らな液体を吹き零していた。
あまりの快感を堪え切れず、わたくしは仰け反って肩で大きく息をした。
「…。君の潮吹きは…、何度見てもそそられるね…」
「……」
わたくしの吐精を浴びて、恭弥さまの美麗な面は淫靡に濡れている。
羞かしくてたまらないのに、身体は次の快楽を求めてうねりをとどめることが出来なかった。
「あっ…、恭…、弥さ…」
淫猥な蠢きに男を誘っている股間へ再び顔を埋めて蜜を啜り始めた恭弥さまに、わたくしはついに屈服した。
名を呼ぶことは相手を縛り、自らを縛られることを許すのと同義である。
だからこそ、わたくしは自ら恭弥さまの名を呼ぶことを決してしなかった。
媚薬で誘惑され、自分の意思に反して恭弥さまを求めるとき以外はどんなことがあっても…。
今も、我慢比べの末の屈服だ。
そう言い聞かせなければ、光明の見えない生活を生きぬくことは出来ない。
「美凰…」
「恭…、弥さま…」
恭弥さまはとろとろに濡れそぼったわたくしの股間から顔を離さずに命じた。
秘処から指が抜き取られ、淫蜜に塗れた両手がわたくしの乳房を強く弄っている。
ぬるぬるとした卑猥な感触を双の乳首に感じ、快楽に身悶えた。
「もっとだよ。もっとちゃんと呼びなよ!」
「ああっ…」
再び花珠を舌と指で嬲られ、わたくしは思わず腰を浮かせた。
「恭弥さま…、恭弥…、きょ、やぁ…」
「美凰…、美凰…」
もう限界だった。
恭弥さまが欲しい…。憎くても欲しい…。
わたくしを飼い馴らし、こんな風に淫らな身体に育て上げた恭弥さまが…。
理性を凌駕する、圧倒的な肉欲。
恭弥さまにこの欲望を鎮めて貰いたい…。
愛も憎しみも何もかも忘れて、ただひたすらに恭弥さまだけが欲しい…。
「欲しい…、恭弥さまが、欲しいの…、お願い…」
既に上体を起していた恭弥さまは双眸を輝かせ、わたくしを見つめていた。
勝ち誇った様な、濡れた瞳だった。
「僕か欲しいかい?」
「欲しい…」
「美馬の叔父じゃなくて、僕を挿れて欲しい?」
「挿れて…、あなたを挿れて…」
わたくしの声は顫えていた。
「誰を挿れて欲しいの?」
涙が零れ落ちる。
「あなたですわ…、恭弥さま…」
覆いかぶさってきた恭弥さまに涙を舌で拭われて、息がかかるほど近くで囁かれた。
「もう一度だよ…」
「恭弥さま…」
「もっとだ…」
双の乳房を鷲掴まれ、乳首が熱い唇に包まれる。
「ひぅっ! ん…、っふぅっ! ふぁっ…」
「美凰…、僕の名だ…」
「恭、弥…」
しなやかですべらかな恭弥さまの背に、自然に腕を廻してしまったのにも気づかなかった。
先程は一気に押し寄せた官能の波が、今度はゆっくりじわじわとわたくしを苛む。
もどかしくて、苦しくて、物足りなくて、濡れた瞳でもっと、と訴える。
「美凰…」
恭弥さまがわたくしの名を呼ぶ。
何度も何度も…。
それは甘い囁きでも命令でもなく、どこか請うような口調に聞こえるのはわたくしの気のせいなのか?
『性奴』に対して『公爵さま』が一体、何を請うというのか…。
だが操られたわたくしの欲望は、一瞬の思考を頭の片隅に追いやってしまった。
「あっ…、あぁんっ…、ふ…、ぁんっ…」
わたくしの腕に力がこもった。
唇に、吐息がかかった。
唇から頬に、そして耳元へと恭弥さまの唇が移っていく。
耳朶を甘咬みされ、耳の中に舌を入れられ、わたくしは更に喘ぎを漏らした。
「恭弥だよ。僕の名を呼べ!」
耳元で囁かれて、ぞくりと身体が顫えた。
「…、恭弥っ! 恭弥…、はっ、あぁぁっ、きょう…、や…」
「…、美凰!」
恭弥さまの名を叫んだ瞬間、わたくしは一気に貫かれた。
待ち望んだ快楽にわたくしの身体は跳ね上がり、逞しく蠢く恭弥さまの腰に絡みついた…。
何度も突き上げられ、耳元で甘く囁かれ、わたくしは違う意味で器だけの『女』になってしまっていた。
「恭弥ぁ…、はぁっ…」
その名を呼ぶのも、何度目になるのか解らない。
そして、恭弥さまの腕の中で昇りつめるのも…。
「やぁぁぁっ…、んっ、んっ…、ふぁぁっ…」
息も絶え絶えに喘いで、わたくしは恭弥さまにしがみついた。
貫かれる度に流れ落ちた涙で、頬も髪もすっかり濡れてしまっている。
どれほど涙を流しても切なさが込み上げて、わたくしは恭弥さまの名を何度も何度も繰り返した。
「…、辛いかい?」
優しげな問いに頸を振る。
つらくはない。
つらいのは身体ではなく、心だ。
ここにはない筈の心…。
媚薬の力を借りているのだとしても、これほど求め、酔わされ、そして心地よくて満たされているというのに、わたくしの中が悲鳴を上げている。
こんなに愛しているのに…。
心は決して届かない。
それなのに、縋りついた身体を離すことが出来ない。
抱きしめられる腕を振りほどくことが出来ない。
「はぁ…、くっ…、あっ、ぁん…」
「美凰…、美凰…」
「あっ、あ…、あ…、うぅっ…、ん、きょう…、やぁぁぁっ…」
「…、美凰…、美凰っ!」
名を呼ばれ続ければ、切ない思いが込みあげてくる。
「…っ! 恭弥っ…、くっ…」
恭弥さまが上体を起こし、わたくしの腕が褥の上に滑り落ちた。
わたくしの脚を肩に抱えあげ、恭弥さまは深奥に求めて強く穿ちながら断末魔の声をひくくあげる。
「…あ…、い…、してる…! 美凰っ! うっ、うぅぅぅっ…」
「ひっ! ひぃあぁぁぁぁっ!」
烈しい迸りを胎内に熱く感じたわたくしは悲鳴をあげて背中を弓形に反らし、恭弥さまと同時に達した…。
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