窓から淡く白い光が射し込み、鳥達の囀りが聞こえたのをわたくしはぼんやりと感じていた。
いつの間にか、夜が明けていた…。
覚醒しつつある、わたくしの口許がひんやりと濡れた。
腫れあがった唇に優しく唇が重ねられ、口移しに甘い芳香のする冷たい水が流し込まれる。
泣き叫んで痛んでいた喉に、冷たい水は心地良かった。
「眼が覚めたかい?」
「……」
呆然と見開かれた虚ろな眼に、恭弥さまの顔が映る。
いつも綺麗に撫でつけられている黒髪はくしゃりと乱れている。
整った凛々しい面立ち。
熱く燃えている黒曜石の様な双眸。
初めて出逢った時から恋い慕い続けていた。
実る筈のない身分違いの恋を先代さまに引き裂かれ、恭弥さまとわたくしの間はもはや修復不能な状態となってしまった。
そして“愛さえあれば”というわたくしの想いは、打ちのめす程の憎しみによって日々蝕まれてゆくのだ。
わたくしはふいっと視線を逸らした。
恭弥さまを見つめているのは、恭弥さまに見つめられているのは耐えられない。
昨夜の様な交わりは、二度と嫌だった。
それでも、逃げられはしないのだ。
これがきっと、死ぬよりも酷いことなのだろう。
〔一体、いつまで?〕
答えの出ないことは考えたくなかった。
「昨夜は…、乱暴し過ぎた。すまなかったね」
「……」
珍しく、本当に珍しく恭弥さまはわたくしに向かってひくい声で謝った。
そのまま、淫らな紅痣だらけのわたくしの身体を優しく撫で始める。
胸に残る紫色に変色した綺麗な歯形に、恭弥さまは顔を顰めた。
「僕に逆らうから…、こんな事になる…」
「……」
微動だにしないわたくしをそっと抱き締めると、恭弥さまは昨夜自分がつけた所有物の痣を一つ一つ丹念に舐めて、わたくしの身体を蕩けさせ始める。
「んっ…、うっ…」
昨夜の出来事が夢ではないかと思える程の甘美さ。
「美凰…、美凰…」
耳元で何度も優しく名を囁かれ、大きな両手がわたくしの頬を挟む。
甘やかなキスを与えられたわたくしは、身体中が妙なざわめきに襲われるのを感じた。
唇が優しく舐められて、恭弥さまの唾液で濡れる。
「んっ…、あぁっ…」
押し殺そうとしていた声が、吐息の隙間から零れ落ちた。
〔わたくし…、どうしたの? すごく…、恭弥さまが欲しい…〕
嫌な予感が脳裡をかすめる。
まさか恭弥さまは…。
さっきの甘い水は…。
頸筋や肩、乳房や背中までもをゆっくりと愛撫しているというのに、恭弥さまは肝心な処に触れてこない。
物足りなく感じたわたくしがもじもじと脚を摺り合わせた瞬間、待っていた様に恭弥さまが微笑を浮かべた。
「効いてきたようだね?」
恭弥さまの言葉にわたくしの思考は凍りついた。
膝を割られ脚を開かれ、既に熱い蜜を多量に滴らせている秘部に高指を埋められる。
くちゅりという音が淫らに響き渡り、わたくしは小さく喘いで恭弥さまにしがみついた。
「ま、まさか…、ま、また…、く、薬を?…」
「互いに楽しむ為だよ…」
「……」
思った通りだ。
恭弥さまはわたくしを意のままに操る媚薬を飲ませたのだ…。
脳が冷めても、身体は熱を帯びたままだった。
どうして? と呪わずにはいられない程にわたくしの官能は煽られていた。
恭弥さまの指の蠢きの一つ一つが、心地よい疼きをもたらす。
苦しさから喘ぐのではなく、快楽を悦ぶ声が口から漏れる。
昨夜、自分の意向逆らった性奴に対する最後の仕上げということなのか…。
羞恥と悲哀に涙が零れた。
「い、やぁぁぁ…、ぁ…、っ…」
熟れて剥き出しになった花珠を指で擦られ、わたくしの身体が意思に関係なく身悶える。
それを抱きしめて、恭弥さまはなおも言葉を重ねた。
いつもの様に言葉の責め苦が始まる…。
「もっと気持ちよくしてあげるよ。だから言って…」
恭弥さまがどうしても、寝室でわたくしに言わせたい言葉…。
急激に高みに昇らされたわたくしは、ぼうっとしたまま恭弥さまを見返した。
その唇が顫えて、掠れた言葉を紡ぎ出す。
「いや…、いや…」
新たな涙が頬を伝う。
わたくしの愛の想いを汚らしいとばかりに踏みにじり、欲望だけを強調し続ける不毛の関係。
恭弥さまはいつでも冷酷で、そして卑怯なやり方でわたくしを縛りつけ、決して逃そうとはなさらないのだ。
一体、いつまで…。
「ひっ…、ひどい…」
恭弥さまはくつくつと笑いながら、熱く燃えているわたくしの中にもう一本、指を挿入した。
「ひぁっ!」
「人でなしで卑怯者…、結構だよ! 僕は君が思う通りの男だからね。さあ、言ってみなよ。僕の名前を!」
狂いそうなまでに、恭弥さまを求めている。
身体中を支配する熱が、恭弥さま自身を埋めて欲しがっている。
でも屈服できない。
わたくしは傷だらけの唇をぎゅっと噛み締めた。
血の滲む唇を見た恭弥さまの表情が翳ったのは一瞬の事。
次の瞬間には嘲笑しながらわたくしの唇を奪い、力を失っている脚を大きく広げて立膝にさせた。
「ふっ…、うふぅっ…、あっ…」
新たな傷口を舐める様に接吻が繰り返される。
「僕のものに傷をつける事が出来るのは、僕だけだ…」
わたくしの中に埋められた指がもう一本、増やされた。
そして別の指が膨張した珊瑚色の花珠をゆっくりと擦りあげる。
「ひっ! ひあぁっ!」
もう、なにをされているのかも解らなかった。
「恭弥だ。名前を呼びなよ。そうすれば…、君が今、望むものをくれてやる」
「い…、やっ…、ぁ…」
「恭弥だ! 言いなよ…」
「恭…、うっ、んぁっ…、ああっ…」
絶え間なく噴出する淫蜜の中を、手馴れた恭弥さまの指が蠢く。
「…、どうしても言えないのかい? じゃこうしてあげる…」
恭弥さまは大きく開かれたわたくしの股間に顔を寄せた。
「やっ…」
挿入していた三指を小刻みに揺らして攪拌させ、我慢できない程の昂ぶりを秘めた花珠を烈しく扱きながら、濡れた舌先で二枚の花弁と花珠の間を舐めつつ、淫らな音を立てて熟れた珊瑚色の真珠を吸いあげた。
頭が真っ白になって、光が弾けた…。
「ひっ! ひあぁぁぁっ!」
その瞬間、ぴしゃっという音とともにわたくしの中から熱いものが噴出した。
_4/78