狂愛 1
 まるで美の結晶の様な、完璧な容姿。
 天使の優しさと女神の気品を併せ持つ極上の女…。
 雲雀が必死になって“毒婦”と思い込もうとしている女…。
 豪奢な寝室のベッドの上で、媚薬に翻弄されている美凰は襤褸と化した着衣を引き裂かれる勢いで剥ぎ取られて抗う事も出来ないまま、全裸の雲雀の眼前に美しい肢体を曝け出していた…。
 媚薬の効果は、美凰から抵抗する力を殆ど奪い取っていた。
 これ程の効き目があるのかと、雲雀は内心驚きながらも自分の高ぶりを抑え切れずにいた。
 美凰の裸体は、雲雀の目を大いに惹きつける。
 張りのある豊かな乳房に白く透けるような真珠の肌。
 その肌は雪花石膏の様に薄っすらと赤みを帯びて、とても艶かしい。
 下腹部の茂みは先程自分が撒き散らした白濁液のせいで、妖しく淫らに光っていた…。
 美凰の上に馬乗りになった雲雀は彼女の両側に手をつき、徐に顔を近づけてゆく。
 雲雀の息が美凰の唇に掛かり、柔らかな唇が小さく開くと雲雀はその美唇を丹念に舐め廻した。

〔いや…、やめて…、恭弥さま…、こんなこと…、いやっ!〕

 心の片隅、脳裡の一片が、ほんの僅かに残された抗いの力を思い起こさせて美凰をもがかせる。
 だが、その思いは悪魔の催淫効果によって遠い意識の彼方に追いやられるしかなかった。



 眼も眩む興奮に息が上がる。
 そして全身を襲う、どうする事も出来ないむず痒さと情熱…。
 逃れる事の出来ない自分と相手の情熱…。
 諦め続けていた恋心の開放を求めて、美凰の理性は欲望に凌駕されてゆく…。

「あつ、いの…、はぅ…、ふぅ…、んっ…」

 くちづけの合間に唇から吐息が漏れ、理知の輝きが失われた美凰の双眸はゆっくりと濁り出しつつあった…。

「ねぇ、ディーノは…、良かった?」
「……」

 噛みつく様な荒々しいくちづけ…。
 美凰の舌を捉えた雲雀は、熱く柔らかなそれを幾度も絡め取って吸いあげる。

「二年の間…、あいつに何度くちづけされた? 感じたの?」
「ぁふっ…」

 大きくしなる真珠の裸身を雲雀の両手が押さえつける。
 自分の気の済むまま存分に美凰の口腔内を犯した雲雀は、ゆっくりと唇を離して欲望に紅潮するすべらかな頬を舐めていく。
 美凰の口の端からは、どちらのものとも解らぬ銀の雫が伝わり落ちていった。
 頬から耳元へ舌を滑らせた雲雀は、美凰の耳朶から項を丹念に嬲り始めた。

「ディーノでなくて残念だろうけど…、僕の方がよほど君を楽しませてあげられるよ?」
「ふぅぅっ…」
「解っているんでしょ? ん?」
「……」

 媚薬で朦朧としている美凰は、身体中を駆け巡る熱いものに身顫いして頸を振る。
 雲雀は美凰の頤を掴んで固定すると、舌や唇で耳を弄んだ。
 耳孔に舌を挿入され、くちゅくちゅと音を立てながら犯される美凰は荒い息を吐き始め、その様子に雲雀は口元を歪めた。

「君の様な淫乱な女は…、僕しか御せない…。解っている筈だよ…」
「あぅ…、ううっ、んっ…」
「君の様な盛ってばかりの雌は…、僕がちゃんと躾けなきゃね…」
「いっ…、やぁ…」

 雲雀は、絡みつくような視線を美凰の全身にくまなく這い廻らせた。



 絶世と呼ぶに相応しい美貌の花顔…。
 抵抗するどころか、寧ろ男を求めてやまない蠢きを見せる白く優美な両腕。
 褥の上に乱れ散る艶やかな漆黒の髪。
 綺麗に結いあげられていた髷は無残に崩れ、頭上を飾っていた古めかしい蒔絵の櫛が白い褥の上に転がり落ちる。

〔ディーノのことだから小間物は殆ど西洋のものかと思っていたけど…、意外だね。ああそうか! 美凰が自分好みのものをねだったってわけ?!〕

 胸を掻き毟られる程のどす黒い嫉妬心を抑制できず、雲雀は美凰の白い頸筋に咬みつきながら蒔絵の櫛を豪華な波斯絨緞が敷かれた床の上へ乱暴に払いのけた。

「ああっ…」
「あんなもの! 欲しけりゃ僕がいくらでも与えてやる! 君が僕のいう事だけを聞いていればね!」
「……」

 雲雀はベッドの傍に置いてあった卓の上に準備されていた葡萄酒の杯を手に取り、中身を一気に煽った。
 紅玉色をした芳醇な酒には、美凰に与えたものとは異なる、特別に調合された催淫剤が混入されている。
 一昼夜続く効能で美凰を陵辱し尽すべく、雲雀は生まれて初めて自らに媚薬を用いたのだ。
 より一層、淫らに輝き始めた雲雀の瞳に、激しい息遣いと共に上下に揺れる豊満な双の乳房が映った。
 膨らみの頂点を飾る美しい桜色の乳首が雲雀を誘っている。
 優美な曲線が伸びる柔らかな胴のくびれ。
 豊満な艶を醸し出す腰。
 しなやかな肉置き満ちた白い脚。
 そしてその付け根にある漆黒の濡羽色をした茂み、その奥に覆われた秘密の花園。
 雲雀を狂わせる、薔薇色の輝きを持つ究極の肉襞…。



 白い頸筋に血が滲んでいる…。
 先程、加減なく力任せにきつく咬みついた為、肌に傷をつけてしまったのだ。
 白い肌に散った深紅の雫が、雲雀の狂愛に拍車をかけた。
 雲雀の指先が血を掬い取り、舐める…。
 そして唾液に濡れた指はもう一度、滴っている血をなぞり、ゆっくりと豊満な胸の谷間におりてくる。
 頸の傷を癒す様に舐めながら、雲雀の両手は豊かに膨らむ双の乳房を鷲掴んだ…。

「あ、はぁ…、んっ…」

 可憐な唇から、甘く蕩ける様な吐息が漏れる。
 痺れる様な疼きが、既に二度嬲られた後の美凰の下腹部へと伝わっていく。

〔だめ…、いいえ…、なにがだめなの? 解らない…。解っているのは…、恭弥さまが欲しいということだけ…。薬のせいでも、弄ばれているだけでもなんでもいい…。恋しかった…、ずっとずっと恋しかった恭弥さまが欲しい…、恭弥さまが欲しい…。わたくしの奥深くに…、恭弥さまが欲しいの…、満たされたいの…〕

 羞恥より秘めやかな箇処を襲う疼きの方が勝っているのだ。
 そのもどかしい思いに、男の蠢きが拍車をかけた…。

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