帯を解いた僕はあっという間に纏っていた着物を脱ぎ、美凰の上に覆いかぶさった。
濡れた瞳でうっとりと僕を見つめる美凰の、少しだけ不安がっている様子に微笑が零れる。
僕は美凰の額に自分の額をあて、鼻先をくっつけて囁いた。
「大丈夫かい?」
「は…、い…。だ、だいじょうぶ…、です…」
可愛い、可愛い僕の美凰…。
僕は美凰の唇に軽く接吻をして、下腹部に手を伸ばした。
「挿れるよ。今度は僕をいかせるんだ…」
もう一度だけ囁いて、ゆっくり挿入していく。
「あっ…」
「っ! きっ、つっ…」
一瞬、意識が飛んでしまいそうな程の強い圧迫感。
肉が絞られてゆく感触がぞわぞわする程気持ちいい…。
可愛い声が「あっ、あぁ…、あぁぁん…」と僕の下から漏れ聞こえる。
僕は美凰の豊麗な腰を掴んで、更に奥まで入ってゆく…。
「わか…、さま…」
「聞き分けの…、ない子だね…。恭弥と…、お呼び…」
「き…、恭弥さ…」
「ん…、ん…、いいよ…。凄く…、いい…」
綺麗だ…。
その悦楽に歪む花顔の、なんと綺麗な事だろう…。
「んっ、ぁあっ、くっ、あぁぁっんっ…」
「美凰…、痛く…、ない?」
僅か十五歳だというのに、柳眉を顰めてこくこく頷く姿のなんと艶麗なこと…。
「き、恭弥…、さま…」
「ん?…、なん、だい…」
「ひっ! あっ…、あうぅっ…」
「大丈夫なら…、少し動く…、よ…」
美凰は微かに頷いて、ぎゅっと目を瞑った。
ああ! なんて可愛いんだ、僕の美凰は…。
すべすべの肩に唇を寄せ、僕はぐっと腰を深く沈める。
「あっ、あぁぁぁーっ! き、きょ、やぁ…」
僕が欲望の赴くまま放恣に腰と下腹部を蠢かせる度に、美凰が僕の名前を呼んだ。
“愛しい”とか“愛している”とか、恥ずかしくて面と向かって言葉にしては言えないけれど…、僕は誰よりも美凰を愛している…。
美凰の甘い声に耳が蕩けそうだった。
いつか指導教授の利菩山先生のお誘いを受け、お屋敷にあがったとき“絶対に途中で抜けない”なんて生々しい話を聞かされたことがあったけど、まったくその通りだ。
途中で抜くなんて絶対に無理な事に違いない。
滾った僕のもので隙間なく繋がり、突き上げ、掻き回す…。
凄過ぎて頭が真っ白になる…。
ああ、でも本当に僕は気持ちがいいのだろうか?
それすら解らぬ程の快楽に頭が廻らない。
この僕の頭がだ…。
真っ白な中にくっきり見えるのは、ただ美凰の身体と声だけだった…。
「っはっ! あっ…、あぁっ…、はぅぅっ…」
「っく、美凰っ…、いいっ? 僕の…、気持ちいい?」
「…、いい、きょ、や、さま…、いい…」
「ん…、僕も…、うっ…、あっ…、中…、出すよ…」
「…、い、いけませ…、きょ…、あっ! あぁぁぁっ!」
ふんわりとしたお尻を、僕はしっかりと両手で持ち上げた。
「僕が許すから…、僕の…、僕の子を…、産んで…」
美凰の身体が大きく撓った…。
「お、お許しを…、だ…、め…」
「駄目じゃないよ…、僕の希みを…、叶えるんだ…」
「ひっ! ひぃあぁぁぁっ!!!」
脳と心臓と、そして下腹部が一瞬にして弾けた。
いっぱいいっぱいだった頭の中が不意に楽になる。
呂律が微妙に回らないけど、ちゃんと言葉は選べた…。
ぐったりした美凰の身体に、覆い被さる様に倒れ込んで息を吐く。
美凰の熱い息と甘い嗚咽が耳元にかかる。
強く打つ僕の鼓動が美凰にまで伝わってしまいそうな気がする。
皮膚という脆弱な壁など、簡単に通り抜けてしまいそうだ。
「僕、本気だから…」
「……」
「希みが叶うまで…、毎晩ここへ通うからね…」
「わ、若さ…」
僕は美凰の唇を指で塞いだ。
「恭弥だよ…」
「……」
「子供が…、君を僕に繋ぐ『鎖』となってくれるのなら…」
「…、き、恭弥さま…」
「父上の事は、心配しなくてもいいよ。僕がちゃんとする」
「……」
僕の言葉に美凰の双眸が揺らめいた。
「なに? 信じられないわけ?」
「い、いいえ…」
そして美凰は僕の胸の中にそっと顔を伏せたと思いきや、僕に甘える様にすり寄ってか細く呟いた…。
「す…、き…」
「美凰…」
「すき…、きょ、や、さま…」
「……」
「好き、です…、恭弥さまっ…」
「美凰…」
譫言の様に繰り返すその言葉が 、例え無意識のものだとしてもたまらなく嬉しい。
僕は美凰の頭から抱き込む様にぎゅっと抱き締めた。
汗ばんだ身体と身体がぴたりとくっつく感触も、美凰だからいやではない。
むしろ、ずっとこのままでいたい。
額に接吻をして、半分くらい意識が混濁している美凰に“僕も…、好きだよ”と囁いた…。
好きで好きで好きで…、どうしたらいいの解らなくなる…。
五年前の僕は…、覚めない夢の恋に酔っていたのだ…。
美凰の花顔が少しずつ遠のいてゆき、雲雀ははっと目覚めた。
「……」
ぼんやりと眼に飛び込んできた景色に、現在自分が六道伯爵邸の書斎に居ることを認識する。
今日は学習院時代からのライヴァルであり、今秋には義兄になる予定の六道伯爵の呼び出しを受けてここを訪ったのだ。
〔随分と、懐かしい夢をみたものだ…。いや、悪夢というやつか…〕
来客が一件あるとのことで書斎で待たされている間、ほんの少しと思って眠ってしまっていたらしい。
〔六道の書斎で眠ってしまうなんて…、僕らしくない失態だね…〕
雲雀が姿勢を正して吐息をついた瞬間、背後から“くふふっ” という独特の笑い声が聞こえてきた。
「おやおや! やっとお目覚めですか?」
「……」
気怠げな様子で雲雀が首を巡らせたそこには、この屋敷の主である六道骸伯爵がにこやかな微笑を浮かべて立っていた。
「お珍しいですね? 雲雀君ともあろう人が他家の書斎で居眠りとは…」
「……」
窓から差し込む陽光を背に受けて、心底の読めない笑顔でこちらを見つめている六道に、雲雀は剣呑な眼を向けた…。
_8/78