並盛Romance 14 (雲雀Side)
 いやだ! いやだ! いやだっ!
 初めて好きになった女の子と綺麗な夕日を見たのは、たった数時間前の事なのに…。


 不覚を取った自分がこの上もなく悔しくて、惨めで…、それでも男の本能が快楽に煽られて…。
 無垢な美凰の優しい面影が…、悔し涙の向こうに次第に遠のいた…。
 僕の生涯、唯一度の屈辱だった。
 もう二度と、あんな眼に遭うつもりは…、絶対にない。


 同じ棟で眠っている乳母の千鳥が深夜、たまたま廊下を歩いていて僕の部屋の物音に気づき、義母との現場を発見してくれたのは幸いだった。
 朦朧となっていた僕を千鳥は半狂乱になって抱きしめ、僕を姦していた義母であった女を使用人達に拘束させると、最近囲ったばかりの愛人のマンションに滞在していた父に連絡を入れた。
 父は大慌てで屋敷に戻ってきた…。


 僕は常々、父のことを軽蔑していた。
 母が亡くなった後は僕のいる家庭を顧みず、次々に愛人を作っては女から女に渡り歩いていた莫迦な男。
 僕の顔を見るのも厭そうだったから、僕も次第に父を嫌いになっていった。
 不自由はなかった。
 元々一人が好きな性質だったから。
 乳母の千鳥と千鳥の夫の浪埜(なみの)が、僕の親代わりだった。
 僕にトンファーの扱いや体術を教示し、父親に近い思いをもって仕えてくれたのは浪埜だった。
 その浪埜も、昨年癌で亡くなった。

 千鳥が涙をこらえながら僕を風呂で清めてくれていた時、慌しく父が帰ってきた。
 父は激怒していた。
 今迄見たこともない程に激情を露にして、僕を玩具にした女を殴りつけ『大事な息子をよくも傷つけたな! 殺しても飽き足らんぞ!』と罵倒し、実際に女の首を絞めていた。
 仮にも…、自分の妻を…、彼は僕の為に殺そうとしていた…。

 父は泣きながら、何度も僕に謝った。
 すまない…、すまない…、と。
 普通の展開ならば『妻を誘ったのはお前だろう』などと僕が怒鳴られ、殴られるのではないか?
 現に女は『恭弥が無理矢理に…、あたしは強姦されたの!』と、泣きながら戯言をほざいていたではないか。
 だが、父は女の言葉を信じなかった。
 全面的に…、息子である僕を信頼していたのだ。
 頭が混乱していた僕は、いつの間にか屋敷を飛び出していた。
 並盛の街中をぼんやりと彷徨い歩き、手負いの獣の様になりふり構わず群れを咬み殺す。
 呆然とした頭の芯が“美凰に逢いたい”というシグナルを点滅させたから、足が自然と並小の図書館に向かっていた。
 夏休みでも開放されている図書館を、僕と美凰はいつも利用していたからだ。
 そして思った通り、美凰はそこにいた…。



「ひっ! 雲雀くんっ?! い、いったいどうしたの?! 血だらけじゃない!」
「……」
「また喧嘩したの? 怪我してない? 大丈夫?」

 慌てて僕に向かって駆け寄ってきた美凰は、心配そうに僕の手を取った。
 昨日この手を握った僕の手は無垢だったのに…、今は醜く穢れている…。

「雲雀くん?」

 穢れのない綺麗な美凰に…、僕を清めて貰いたかった。
 嫌い合っていた筈の父が僕に土下座をして詫びる姿が眼に浮かぶ。
 大嫌いな女が義母親面をして僕に媚を売り、そして昨日は僕を恣(ほしいまま)にした姿が眼に浮かぶ。
 父にほったらかしにされていた性欲の捌け口と、亡くなった母を想い続ける父と、母そっくりの顔をした冷たい義息子への復讐の為に…、僕は穢された。
 身体の自由さえ奪われていなければ、あんな無様な目には遭わなかったのに…。
 それなのに…、薬で意思を奪われていたにもかかわらず、僕の男の本能は快楽を得た。
 愧入るばかりに悦楽を感じてしまったんだ。
 あの悦びは…、もう少し歳を重ねてから、美凰と共に味わうべき神聖なものだった筈なのに…。
 精神的に逼迫してしまっていた僕は、衝動的に美凰を抱きしめていた。
 無垢な彼女に癒され、自分の汚れをすべて洗い流して貰いたかったのだ。

「ひ、雲雀く…」
「黙りなよ! 僕のいうこときかなきゃ、咬み殺すっ!」
「……」

 そして僕は、咬みつく様に美凰の唇を奪っていた…。
 僕は彼女が好きだ。
 愛している…。
 だから、彼女を僕のものにする…。
 その時の僕は自分の事に必死で、彼女の事を思いやってやる余裕がなかった。


 図書室には誰もいなかった。
 僕は突然キスされて動揺している美凰の身体の自由を奪い、資料室になっている小部屋に彼女を連れ込んだ。
 美凰は怯えた顔をして眼をいっぱいに見開き、声も出せずにがたがたと顫えていた。
 そんな彼女を、僕は埃を被った古い応接ソファーの上に押し倒していた…。

 あの時の血の匂いは生涯忘れない。
 僕が…、後にも先にも初めて流させた美凰の血…。
 女が一生に一度しか流す事のない…、処女の血…。
 彼女にとっては間違いなく、文字通り引き裂かれる様な痛みしかなかったに違いない。

「やっぁ…、痛い…」
「美凰…、僕を綺麗にして…。我慢して…」
「…、っっやあぁぁっ…、やあぁっ…、痛いよぉ…」
「美凰…、あっ…、美凰…」
「ひ、雲雀く…、やだ…、やだぁ…、はぁ…、あっ…」

 どんどん溢れる涙がくしゃくしゃに泣き咽ぶ美凰の顔を濡らす…。
 顔の横へ流れる涙を、僕は指で掬いつつ彼女に覆いかぶさった身体を蠢かせる。

「あぁっ! やぁ…、んっ…、あぁ! ど、どして…」
「美凰っ、好きだよっ…、美凰っ…」

 切れ切れにそう言って、僕は美凰を更に強く抱きしめた。

「雲雀く…、や、やだっ…、も、やめっ…、んぁっ!」

 綺麗な涙がぽろぽろ溢れるのをうっとり見つめつつ、力を込めて更に奥を穿つ。
 柔らかく膨らんでいる胸を無造作に掴み、小さな桜色の蕾に唇を寄せて吸った。
 母親の乳を求める様に、何度も何度も吸い続ける。

「ひゃんっ…、やぁ、だめぇ…、やめてぇ…」
「美凰っ…、僕の名前…、呼んでっ…」

 荒く息を吐きながら、僕は救いを求める切なげな眼差しを美凰に向けていた。

「ひ、ひばりく…」
「恭弥だよ! 恭弥って呼ぶんだ!」
「ひぁっ! うっ、あっ…、あぁ…、き、きょ…、やく…」
「そうだよ…。恭弥だ…」
「恭…、弥く…、恭弥く…、んっ!」
「君だけが僕を…、浄化できるんだ…。一生大事にするから…、ずっと僕のものだから…」
「あっ! やっ、やっ!」

 僕の切羽詰った思いが、朦朧としている美凰に通じている筈はなかった。

「ああぁぁぁっ!」
「美凰っ!」

 美凰が僕の名前を弱々しく呼んでくれた瞬間、深く突き上げた僕のものが彼女の狭い内部に締めつけられ、途方もない快感が僕の全てを支配した。
 昨日の悪夢など、比べものにならない程に僕を包み込む愛しい快楽…。
 僕は本能の赴くままに美凰の中に自身を解き放っていた。
 美凰はぐったりと意識を失っていた…。


 激しく蠢いた自身の身体、痺れる様な心地よい刺激、何度も繰り返した熱いキス…。
 昨夜、無理矢理受けた一方的な仕打ちの全てを、僕は美凰に対してやり遂げてしまった…。
 頭の中が真っ白になった僕はただただ、泣きながら気を失ってしまった美凰の身体に縋りついて「ごめん…。ごめんね…、美凰…、大好きだよ…、僕は君を愛している…」と呟くしかなかった…。

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