愛と憎しみは『紙一重』だとか?
だが俺は違う。
『憎しみ』はあっても、決して『愛』はないのだから…。
彼女を一目見た瞬間、苦しみ続けた5年の歳月は一挙に吹き飛んだ。
心の奥底から、美凰の総てを欲していた。
彼女は俺のものだ。
黒曜石の様に美しく輝く瞳、深い闇夜の色をした艶やかな髪、柔らかな言葉を紡ぐ桜桃の唇。
そして、この俺をめくるめく快楽へと誘う透き通るように白い真珠の素肌。
そう。
何もかも総て…。
誰にも、髪の毛一筋だって渡しはしない。
俺のものだ。
手に入れる。
たとえ、どんな手を使ったとしても…。
〔手に入れる? 俺は何を言っている? 女はもう、俺のものじゃないか!〕
ふと眼を開けた尚隆は2、3度瞬きをすると、ぐんと伸びをして豪華なリクライニングシートから身を起こし、左腕のロレックスに眼をやった。
慌ただしくギリシアを出国してから2時間でイタリアのローマへ。
そしてローマを発ってからもう12時間近くになる。
「小松様。お目覚めでございますか?」
スタイル抜群の美人キャビンアテンダントが極上の微笑を浮かべて尚隆に近寄ってきた。
「もう間もなく着陸か?」
「…。はい。あと30分程で関西国際空港でございます」
「コーヒーを貰おう」
「畏まりました。あの…、他に御用はございませんか?」
「特にはない。有難う」
「……」
世界の五指に数えられる大財閥の会長は美女に眼がないと聞くが…。
一流ブランドの航空会社で国際便ファーストクラス勤務といえば、誰もが認める抜群の容姿である。
それなのに、このセクシーセレブは自分に対して見向きもしない。
さりげない会話を繰り返し、なんとか携帯番号を聞きだそうとしてもするりとかわされてしまう。
冷たく短い礼の言葉に、客室乗務員は形のいい顎をきゅっと強張らせた…。
マイセンのカップからは香り高いコーヒーのくゆりが立ち昇る。
熱い液体を啜りながら、尚隆は再び沈思した。
〔俺達の間にはSEXしかない。それでいいじゃないか! 俺にはあの身体だけがあればいい。美凰だって同じようなものだろう。俺が命じればどんな事だって…、弟や妹の為にはなんでもいう事を聞くのだからな。いや、そういうふりをしているだけで、実際は俺とのSEXを…〕
狂いそうなほど、切望している。
あの柔らかな唇にそう言って欲しい。
気がつけば、祈りの様に同じ言葉を心の中でいつでも繰り返している。
犠牲精神だけで自分に抱かれているのではなく、自ら欲している行為なのだと口にして欲しい。
憎しみでも構わないから感情を吐露して欲しいのだ。
【奴隷の分際で俺の電話に出ないとは! お前のその強情さを一から矯正しなければな! 明日の昼には伊丹に着く。お望み通り、たっぷり可愛がってやるから今夜はよく眠っておく事だ!】
そうメールを送ってある以上、美凰は相応の覚悟をしている事だろう。
〔鮮烈な痛みを与える事で、耐え難い屈辱を与える事で籠の中の鳥に等しくなってしまったお前に、少しでも俺を刻み込めるものなら…。俺は笑って…、どんな酷いことでもするだろう…〕
尚隆は心の中でそう呟き、深々と溜息をついた…。
※ここから以降、ヒロインのイタいお話を“秘密の花園”に掲載しております。
お読みにならなくても、本編続きになんら問題はございません。
次頁は事後のお話から始まります…。
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