冷蔵庫と付き合うから始まる


「冷蔵庫と付き合うことにした」

狡噛の第一声に目を丸くしたのは、征陸だった。

「コウ?いきなりどうした」
「もう決めた。これから冷蔵庫と付き合う。そうしたらなんでも冷やしてくれるし、食べ物もある。飢えに困ることもない。そうだろ?」

至極真面目な顔で告げる狡噛に、さすがの征陸もどうしてよいかわからない。何か悪いものでも食べたのだろうか。それとも頭でもぶつけたのだろうか。
すると。

「ぷっ」
「え?」
「〜っ、ははっ」
「…コウ、からかったのか」
「悪い悪い。俺がたまにはとっつぁんの違う顔が見たいっていったら、ギノがそう言えっていうからさ」
「悪がきめ」

それでも征陸は苦笑いを浮かべると、安堵の息を吐く。
冷蔵庫と付き合う。征陸がはるか昔に宜野座に読んで聞かせた絵本だ。それを覚えていたことが嬉しい。
「だが」

それとこれとは話が別だ。
滅多に見せない獰猛な眼差しを手向けて。

「悪い子にはお仕置きだな」
「…ああ」

伸ばした手をそのまま狡噛は受け入れ、目を閉じる。
狡噛も嬉しいのだ。
宜野座が少しずつ許してくれることに。その証拠に二人はこれまでにないほどの優しさを感じていた。


2013.2.6



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