りんごうさぎを作る


「大丈夫か」

征陸が狡噛を見舞うと、室内は暗闇に包まれていた。最近蔓延している悪質な風邪ウイルスに狡噛も倒れたと連絡が入ったのは夜半過ぎ。医務室にも食堂にも顔を出さない狡噛を心配してやってきたのは良いが――いつも澄ました顔はひどく苦しそうだ。

「コウ、生きてるか」

額に手を当てると、かなり熱い。もちろん返事はない。
征陸は腕まくりをすると、用意してきたりんごを器用な手つきで剥いていく。

「…ん」

狡噛が気付いたらしい。

「と、っつぁ?」
「目覚めたか?」
「な、んで」
「お前さんの事だからろくに食べてないんだろうと思ってな。ほら、食え」

支えながら、フォークに刺したリンゴを食べさす。狡噛は黙々と食べ始めた。

「そうしてると思い出すな」
「なに…?」
「小さい頃、伸元にもこうして食べさせてやった」
「…」
「特にりんごうさぎが好きでな」

その瞬間。狡噛はがば、っと布団を被った。

「どうした?」
「…」
「もういらないのか?」
「しらねぇ」

不機嫌な声がくぐもって聞こえてくる。理由は分らないが、機嫌を損ねたらしい。

「コウ」
「…、」
「とりあえず薬を飲め。よくならないぞ」

その言葉に、狡噛はむくりと顔を出す。

「…鈍感」

そしてまた布団に潜る。
その瞬間呆気にとられた征陸の顔が面白くてつい笑いそうになったが、必死にこらえる。もう少し困ってしまえばよい。自分が大人気なく嫉妬したくらいには。 


2013.2.6





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