原作そのままの設定でキスから始まる関係 初めて会った時から思っていた。 男にしては色白で形の良い唇。 艶のある髪。 整った鼻梁に透き通った眼差し。 そして、いつかその取り澄ました顔を無茶苦茶に暴いてやりたい、と。 * 「佐々山!」 「何だよ、監視官様。そんな目くじら立てて」 「何だじゃない。お前また厚生省の幹部とやりあったそうじゃないか」 「そうかぁ?」 「とぼけるな。大体…」 「なぁ」 佐々山が身を乗り出すと、狡噛は律儀に言葉を切る。 「あんたってどんな執行官でもそうなわけ?」 「は?」 「理不尽な事があっても、言いつけを守らなくても、そのせいで己の責を問われても――庇ってくれるんだ?」 「佐々山…」 「例えばさ、こんな事しても?」 身を乗り出し、未だかつてない至近距離。 丸く見開かれた瞳に自分が映るのがわかるほど。 だから、つい。 「…っ?」 柔らかい頬に触れていた。ふわりと揺れる感触。 (やわら、けぇ…) ただ触れるだけのキスを解くと、目の前の優美な面持ちはぽかん、と呆けている。 「もしかして初めてだったか?」 そこまで言うと、軽く頬を張られた。 「てて…」 「ふざけるな、馬鹿!」 「ふざけてねーけど、別に」 「佐々山…」 狡噛はもう一度手を振り上げると、暫く葛藤してゆっくりとそれが下ろされる。 「もう、良い。今日は部屋に戻れ」 「へいへい」 * 佐々山が出ていくと、狡噛はまだ温もりの残る口元に手の甲をあて、火照る頬を鎮める。 他愛のない戯れ。ただの冗談。 そんなことは充分に分っているのに、熱は上がるばかり。 「…馬鹿」 届かない言葉は、その場に優しく漂った。 2013.02.04 |