原作そのままの設定でキスから始まる関係


初めて会った時から思っていた。

男にしては色白で形の良い唇。
艶のある髪。
整った鼻梁に透き通った眼差し。
そして、いつかその取り澄ました顔を無茶苦茶に暴いてやりたい、と。



「佐々山!」
「何だよ、監視官様。そんな目くじら立てて」
「何だじゃない。お前また厚生省の幹部とやりあったそうじゃないか」
「そうかぁ?」
「とぼけるな。大体…」
「なぁ」

佐々山が身を乗り出すと、狡噛は律儀に言葉を切る。

「あんたってどんな執行官でもそうなわけ?」
「は?」
「理不尽な事があっても、言いつけを守らなくても、そのせいで己の責を問われても――庇ってくれるんだ?」
「佐々山…」
「例えばさ、こんな事しても?」

身を乗り出し、未だかつてない至近距離。
丸く見開かれた瞳に自分が映るのがわかるほど。
だから、つい。

「…っ?」

柔らかい頬に触れていた。ふわりと揺れる感触。

(やわら、けぇ…)

ただ触れるだけのキスを解くと、目の前の優美な面持ちはぽかん、と呆けている。

「もしかして初めてだったか?」

そこまで言うと、軽く頬を張られた。

「てて…」
「ふざけるな、馬鹿!」
「ふざけてねーけど、別に」
「佐々山…」

狡噛はもう一度手を振り上げると、暫く葛藤してゆっくりとそれが下ろされる。

「もう、良い。今日は部屋に戻れ」
「へいへい」





佐々山が出ていくと、狡噛はまだ温もりの残る口元に手の甲をあて、火照る頬を鎮める。
他愛のない戯れ。ただの冗談。
そんなことは充分に分っているのに、熱は上がるばかり。

「…馬鹿」

届かない言葉は、その場に優しく漂った。


2013.02.04




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