大正時代で片想い 佐々山が目の前の着物の帯に手をかけると、途端に頬を叩かれる。パシンという音が綺麗に響く。 「って!」 「いきなり何するんだよ?」 「それはこっちの台詞だ」 赤くなった頬をさすりながら佐々山は口元を尖らせた。 当然、狡噛はそんな佐々山が信じられないのだろう。きつく歪められた双眸はそのままで、距離を取る。 「悪い。だが…お前が急に変なことするから」 「変なこと、って。あのな、深層の令嬢じゃあるまいし」 茶化すように言うと、狡噛の怜悧な眼差しが怪訝そうにゆがむ。 「馬鹿にしてるのか。俺は男だぞ、佐々山」 「みりゃわかるっての」 「お前は女が好きなんだろ」 「そうだけどさ、お前もよく見りゃきれいな顔してるし」 「…けだもの」 「おいおい、二人で連れ込み宿に来たらそうするってわかるだろ、普通」 そして、再び強烈なビンタ。 「おい!」 「知るか!」 背後で喚く佐々山を無視して、狡噛は宿を足早に出た。まさか、ここまで節操がなかったとは。 佐々山はいつだってそうだ。 自分の気持ちに気づくことなく、軽く弄ぶ。 「くそ…」 なのにこんなにも好きだなんて悔しくてたまらない。 絶対に流されてやるものか。 2013.03.01 |