言えないひとこと


「とっつあん」

名前を呼ぶと隣の男が振り返る。

「どうした」といつもの甘ったるい眼差しと声で。だから俺はいつも言葉を呑みこむ。
この甘さをいつまでも味わっていたい代わりに常守が入れてくれた甘ったるいミルクティを口に含んだ。

「甘いな」
「嬢ちゃんがいれてくれたんだろ。それより何だ?」
「…別に」
「お前さんらしくないな」

そう言いながら、再び書類に向き直る。
無関心ではない。
かといって構いすぎるわけではない。
それがひどく居心地良い。だから、もう手遅れなのは分っている。

俺はすっかりこの甘さに侵されていた。 


2013.01.16




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