いつもと違うだけで 「どうした、狡噛」 「何でもない」 「ならなぜそんなに間を取っている」 毎年4月に1系で催されている花見。 この日ばかりは黒の質素なスーツを脱ぎ、豪華な桜の下で華やかな洋装が乱れる中、例に漏れず狡噛も上質なダークブルーのスーツに身を包んでいた。 ――のだが、目の前に現れた彼を見るなり、宜野座の背後に身体を隠した。 「ギノ、その眼鏡寄越せ」 「は?」 「色相が濁る」 「一体何なんだ!らしくないぞ。たかが、私服だろう」 狡噛の異変が何であるか知る宜野座は、呆れたようにはき捨てる。 「初めて見るんだから仕方ないだろう」 二人の視線の先には、執行官である征陸の姿。 監視官になって征陸に淡い気持ちを寄せていることを知る宜野座はくだらない、と思うだろう。 だが。 (仕方ない。いつもと違う姿を見ただけで) こんなにも心が跳ねあがる。 この気持ちを抑える方法なんて知らない。知りたくもない。 * そして、そんな狡噛に気付いていた征陸は笑いをこらえるのに必死だった。 「とっつぁん、気色悪いぜ」 「佐々山、そう言うな。仕方ねーだろ?」 あんな可愛い姿を見て、平静でいられるわけがない。 普段は凛々しく気高くどのような事件に対しても真正面から立ち向かっていく、獣の姿をしている彼が。 ただ自分を見るだけで、自我を失う。動揺する。どうしようもないくらい、愛しさをあふれ出す。 「っとに、似たもん同志だな」 「全くだ」 佐々山にからかわれても、征陸は久しぶりに浮き足立つ気分を噛み締めていた。 もう二度とこんな気持ちはないと思ってたのに。 厄介だが、たまにはこんな感情も悪くはない。 2013.02.18 |