蒼の封印パロ 虹色☆stamped 「とっつぁん」 「どうした、コウ」 逃げ出した佐々山を窓の下から見やり、狡噛はぽつりと呟いた。もうその面影はなく、目に映るのは漆黒の闇のみだ。 「アイツ…狩人と言っていたくせに、なぜあんな真似をする?自分を殺すと豪語していたあの男が、俺を助けるような真似を」 「…確かにな。アイツのやっていることは俺にもわからんが、ただ…」 「ただ?」 「西家の白虎といえば、鬼門を復活させまいと鬼どもを手当たり次第に狩っていると聞いているな。佐々山光瑠は血が薄まってしまった西家の一族の中で、最も強い能力を持つが故に兄弟を差し置いて当主となった男だ。そんなヤツが」 明らかに狡噛を見て、動揺していた。 彼もまた蒼龍に魅せられたのだろうか。そして蒼龍である狡噛もまた、敵であるはずの佐々山に心を奪われ始めている。 「コウ。お前さんも人のことは言えないんじゃないのか」 「どういう意味だ」 「さっき、明らかに隙があったのにヤツを見逃したな」 征陸に言われ、狡噛は言葉に詰まった。 確かに彼の苦痛に歪む眼差しを見て、一瞬力を抜いてしまったのは事実だ。その隙に逃げられたことを征陸は言っているのだろう。 だが決してその口調は咎めているわけではなく、狡噛の異変を気にしてのことだ。 「…俺にも、わからない」 「そうか。お前さんもまた、見せられちまったのかも知れねぇな」 どんな形であれ、惹かれあう運命の白虎と蒼龍。その運命は、誰にも引き裂くことは出来ない。 狡噛は征陸の肩口にコツン、と頭を預けると、小さく首を振った。 「俺には、とっつぁんがいればいい」 「コウ…」 「他にはなにもいらないさ」 力を使いすぎたのだろう。狡噛はそのまま目を閉じると、眠りの渦に誘い込まれるようにして眠ってしまった。 そんな穏やかな寝顔を見ながら、征陸は再びため息をつく。 強く惹かれあいながらも、決して結ばれない二人の運命。 これからのことを考えて、どんなことがあっても狡噛の意思だけは守っていこうと心に深く刻んだ。 「お前は誰だ?」 狡噛が問うと、男はゆうるりと笑った。昨夜まで自分が知り襲ってきた『佐々山』とはまるで違う。だが、自分に危害を加えようとする強いオーラは変わらない。それどころか強くなっている気さえする。 「狡噛慎也。その言葉をそっくりそのまま返そう。お前こそなにものなのか分ってるのか?」 「…一体、何の事だ」 なにものか、など考えるまでもない。自分は狡噛慎也以外の何者でもない。 コイツは頭がおかしいのか、と思った瞬間。 「ふーん」 「!!」 一瞬の間に傍らまで寄っていた佐々山の指先が、胸元に添えられる。 「!?」 「知らないなら、教えてやるよ」 シャツに手をかけられたかと思うと、勢い良く引き裂かれ、ボタンがはじけ飛ぶ。露わになった胸元に冷たい手が這ったかと思うと、男はにやりと笑った。 「もしかして誰にも触らせてないのか?」 「何のことだ」 振り払おうとした矢先、指先が胸元を強く押した。 言いようのない電流が、身体中を駆け巡る。 「あああああああっ…!!」 電流なんてものじゃない。全ての力が失われる、圧倒的な衝撃。 「ーーーーーっっ!」 力を抜き取られ、膝をついたところで手が離れた。 「な、にをした…」 「俺は西家の佐々山光瑠。お前たち――鬼を狩るものだ」 そこで、狡噛の意識はなくなった。 2013.03.04 |