stranger(美夜様より/322215/animal)


ことごとく邪魔が入る一日、と言うものはあるものだ。
運に左右されるそれは、五千の部下を従えるマフィアのボスと言えど例外ではない。

雲雀にメールをしようと思った途端に着信が入り携帯電話が使えなくなったのを皮切りに、それは一日中ディーノを悩ませた。

放課後雲雀を迎えに応接室に出向くと月に一度の風紀委員定例会の最中で、問答無用に叩き出された。
大人しく廊下で待っていたら、今度は町の見回りに行くと言う。せめて一緒に行きたくて後をつけたはいいものの、雲雀の周りは群れない程度に風紀委員達が固め、ディーノは側による事すら出来なかった。
見回りを終えた雲雀を夕食に誘う事には成功したが時間帯のせいかどの店も混雑し、当然雲雀が入店する筈もなく、デートはあっさり取り下げられてしまった。
ならば持ち帰るしかないとホテルに連れ込んだまでは良かったが、問題でも起きたのかイタリア本国からの連絡がひっきりなしに入り、已む無くディーノは雲雀を放置して執務机に齧り付く羽目になった。

それらの壁を乗り越えて、ようやくディーノは全ての案件を片付けて雲雀の待つリビングに向かう事が出来た。
部下には部屋に寄り付かないよう言い含めた。
携帯電話の電源も落とした。
もう邪魔は入らない。

「待たせてごめんな」

ディーノが仕事をしている内にルームサービスで夕食を済ませた雲雀は、ソファに腰掛け膝に乗せた小動物達と遊んでいる。
その小動物とは、主の事が大好きな黄色い小鳥と紫色のハリネズミ。
普段はあまり見る機会の無い穏やかで楽しげな顔を見る事が出来るのは嬉しいのだが、今は彼らではなく自分を構って貰いたい。

「そいつらとばっか遊んでないで俺にも構えよ。そいつらとはいつでも遊べるけど、俺は今しかいないんだぞ」

「大きな図体して小動物に対抗意識燃やさないで」

ソファの後ろから腕を回して抱き締めると不機嫌そうに鼻を鳴らすけれど、雲雀はディーノの腕を振り解こうとはしない。

「俺はヤキモチ焼きなの」

殊更音を立てて頬や耳朶にキスをすると、雲雀はくすぐったがって身を捩るが、嫌がっていない事は表情で分かる。
ディーノが身を乗り出して雲雀の唇に自分のそれを寄せると、雲雀は少しの逡巡の後、目を伏せてくれた。
ようやく甘い時間が始まると、小さな唇を塞ごうとしたまさにその時、雲雀の膝の上から可愛らしい鳴き声が上がった。

「君達を仲間外れになんてしてないだろ。ほら」

急に構われなくなって寂しかったのか、ヒバードとロールは声を上げて主の気を引こうと必死だ。
その姿の愛らしさに小さな笑みを浮かべた雲雀が指で彼らを撫でてやると、一羽と一匹は楽しげに鳴き、それを見た雲雀も楽しそうだった。

楽しくないのは寸前でキスを回避されたディーノだけ。
愛らしい邪魔者を、けれど邪険に扱う事も出来なくて、ディーノは雲雀の手から彼らを取り上げると真剣な顔つきで話しかける。

「あのな、俺はやっとの思いで恭弥といちゃいちゃ出来る時間を迎えたんだ。お前らが朝からずっと恭弥に遊んで貰ってた間ずっと我慢してたんだ。頼むからこの後は恭弥の時間を俺にくれ。邪魔せずいい子にしててくれたら、今度来る時は美味いもん沢山食わせてやっから」

一羽と一匹の返事を待たず、ディーノは彼らを手に包みチェストへ向かう。
チェストの上に置かれた小さなクッションを敷き詰めた網籠は、このホテルに於ける小動物用のベッド。
ヒバードとロールを丁寧にその中に納め優しい手つきで小さな頭を撫でてやると、素直な小動物達は大人しく眠り込んでくれた。

「これで邪魔者は消えたぞ」

「あなたどれだけ大人気ないの」

「何とでも言え」

そそくさとソファに戻ったディーノが雲雀を抱き締めると、手持ち無沙汰になったせいか意外にも雲雀もディーノを抱き締め返してきた。

(やっと……)

朝からのタイミングの悪さが、走馬灯のようにディーノの脳裏を駆け巡る。
ようやく腕に納める事の出来た幼い恋人を堪能すべく、ディーノはソファの上に雲雀の身体を優しく押し倒した。

けれど唇が触れる直前、つんざくような爆発音が聞こえ、二人は一切の動きを止める。

「な、何だ!?」

もくもくと視界を覆う白煙に、ディーノは雲雀を背に庇って身構える。

「あーくそ……やっぱ十年前に飛ばされたか」

やがて薄くなった白煙の中から現れた男は、呑気な口調であまり呑気じゃない内容を口にした。

「おま……」

「あ?分かんねえ?」

自分と同じ色の髪。
同じ色の瞳。
同じタトゥー。

十年バズーカと言う概念を知り尽くしている身としては答えは出ているが、正直あまり信じたくない。
信じたくは無いのだが。

「ディーノ」

「きょーおーやー」

背後にいた筈の雲雀があっさりと認めてしまったのだから仕方が無い。
今日一番の邪魔者に、ディーノはがっくりと肩を落として項垂れた。


「久し振り、十年前の恭弥」

「十年後のディーノ?」

「そう。元気にしてるか?」

雲雀の額に落とされたキスは、恐らくはただの挨拶。

「恭弥に触んな!」

けれど、最後の最後に最大の邪魔者に入られたディーノにとっては、些細な接触すら許したくなかった。

「俺こんな心狭かったかな」

「うっせえ。お前がラスボスか。さっさと向こうに帰れ」

「何だよラスボスって。帰りたくても俺の一存じゃ帰れねーの。文句は向こうの恭弥に言ってくれ」

「僕、何したの」

「ただの実験」

改良を重ねた新型のバズーカを借り受けた雲雀が面白がって試し打ちをしたのだと、未来から来たディーノがいささか疲れた顔で語ってくれた。

「よりによってこれからって時だぜ。不意打ちもいいところだ」

「だからんなカッコしてんのか」

未来から来たディーノはシャツのボタンを全て外し、逞しい肉体を覗かせていた。

「同じ」

シャツの隙間から見えるタトゥーに雲雀が興味深げに触れるのが、ディーノには気に入らない。

「恭弥。こっち来い」

「邪魔しないで」

「俺以外に触っちゃ駄目だろ」

「この人だってあなたじゃないか」

「そうだけど違うから駄目。俺はここにいる俺だけ」

「あなただよ。色も匂いも同じだ」

「匂いで認識すんなよ。お前は野生動物か。とにかく駄目ったら駄目。って、コラ!お前も恭弥に触んじゃねえ!」

「ぎゅーってするくらいいいじゃねえか。減るもんじゃなし」

「減るの!俺以外が触ったらちょっとずつ恭弥減るの!あっち行け!」

「ホント心狭いなお前」

ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるディーノの声で目を覚ましてしまったのだろう。
気付けばヒバードとロールが、未来から来たディーノの足元で興味深げに見上げている。

「よー。お前らも久し振りだな」

ヒバードはディーノを同一だとでも思ったのか、いつもディーノにするように飛び乗った金色の髪を踏み締めたり引っ張ったりと遊び始めた。
けれどロールはそれとは少しだけ様子が違う。

「キュ!キュ!」

小さな身体を必死に伸ばしディーノの足に鼻を擦り付ける。
両手で抱き上げられた後は、鼻の行き場はディーノの顔になった。

「俺の事、覚えてんのか?」

「キュー!」

「その子の事、知ってるの」

嬉しくて堪らないといったロールの様子に、雲雀は首を傾げて尋ねる。

「未来の恭弥もよくこうやって放してた。俺とも沢山遊んだもんなー」

「キュキュキュー」

よく分かっていないヒバードとは違い、ロールは未来のディーノとこの時代のディーノをちゃんと分けて認識しているようだ。

「バズーカぶっ放されて良かったかもな。向こうで待ってる恭弥にこいつが元気でいる事教えてやれる」

「向こうには、この子はいないの?」

「こいつはボンゴレ匣に組み込まれた匣アニマルだ。たった一つしか存在しないボンゴレ匣は、今はこの時代のお前達の手元にしかない」

「僕が連れて来たから、未来の僕はこの子に会えなくなったの?」

「未来の恭弥もそれがいいと思ってお前に託したんだ。お前は未来の恭弥の分もこいつを可愛がって仲良くしてやれ」

黒い鼻先にキスをして、ディーノはロールを雲雀に返す。
主の匂いはやはり別格なのだろう。掌に鼻先を擦り付け、ロールは嬉しそうに身体を丸めている。

「それに、向こうにはちゃんとヒバードがいる。恭弥は楽しくやってるよ。心配すんな」

「うん」

「だからいちいち触んなっつの」

二人の会話を雲雀同様しんみりとして聞いていたディーノだったが、再び雲雀が未来の自分に抱き締められて我に返った。

「だからお前はどうしてそんなに無防備なの!」

「いい加減にしてくれない。うるさいよ」

この時代の二人のやり取りを、未来から来たディーノは目を細めて微笑ましげに見つめている。

「なあ恭弥、いい事教えてやる」

「何」

「こいつな、お前の事すっげー好きなの。イタリア帰っても暫くは恭弥恭弥ってうるさくて、ロマ達にウザがられてんだぜ」

「てめ!何バラしてんだ!お前だってそうだろが!」

「今はそこまでひどくねーし。恭弥大好きなのは変わんねーけどな。あのな恭弥、こいつお前に構ってもらわねーとすぐ拗ねるし、ヒバード達にすら嫉妬するくらい心狭いからお前はウザがってるかもしれないけど」

「かもしれないじゃないよ。たまに本気で鬱陶しいんだけど」

「恭弥ひでえ!お前もよく自分の事そこまで言えんなオイ!」

「けど、そんだけお前の事好きなんだよ。十年経ったら少しはマシになるから、そこまでは我慢して付き合ってやってくれ」

「そしたら僕に何かいい事ある?」

「今より強くなってるぞ。手合わせ、楽しみじゃねえ?それに、お前の頼みなら何でも聞くから我が儘言ってみろよ」

「面白そうだね」

「だろ」

「待て待て待て」

本人抜きで好き放題言われているディーノは、雲雀が未来の自分と仲が良くて気が気じゃない。
盗られないよう雲雀の身体を再びしっかりと抱き締めて、もう一人の自分を威嚇する。

「あれ?お前、それ何」

睨み付けた先のディーノから、白い煙のようなものが立ち昇っているのが見える。

「タイムリミットみてーだ」

「帰るの?」

「ああ。昔のお前に会えて嬉しかったよ」

「今度は僕も連れてきなよ。この子達と遊んでもいいよ」

「優しいなお前は。じゃあ今度は皆で遊ぶか」

「うん」

「元気でな、恭弥」

「てめ!どさくさに紛れてキスなんてしてんな!」

「頬にならいいだろ。唇は取っておいてやったんだ、褒めてもらいたいくらいだぜ」

軽口の応酬の後、再び大きな爆発音が響いた。
一際鮮やかな笑みを残し、突然の乱入者は真っ白な煙に包まれて見えなくなってしまった。
白煙が晴れた後は、もうそこには誰もおらず、誰かがいた形跡すらなかった。

「いなくなっちゃったね」

ディーノとしてはせいせいしているのだが、雲雀が寂しそうにしているのが気になって仕方がない。

「もっと一緒にいたかったか?」

「今より強くなってるって言った。手合わせや修行やバトルをしたかった」

「や、それ全部同じ事だし」

「背、高かった。手も大きかった」

「そりゃ……十年経ちゃ少しはまだ成長すんだろ……んだよ、俺よりあいつのがいいのかよ」

拗ねたディーノがソファに座り込むと、雲雀も隣に座りじっと見上げてきた。

「これと目は同じ」

ぎゅっと髪を引っ張られて思わず顔が近付いてしまう。

「匂いも同じだった。ちゃんとあなただった」

すり、と頬に寄せた鼻をくんと鳴らして、雲雀は甘えたようにディーノにもたれかかる。

「恭弥?」

「僕の言う事何でも聞くんだって?」

「うん、まあ、基本的には。どうしても無理な事は出来ねーけど」

みっともないとは思うが、こうして逃げ道を作っておかない事にはそれこそどんな無理難題を吹っ掛けられるか分からない。

「じゃあ、目瞑って」

「あ?」

「いいからさっさとしろ」

「あ、はい」

まさか殴られるんじゃないだろうなと幾分怯えながら言う通りにすると、小さな温もりが唇に宿った。

「……あ?」

「何」

思わず目を開けると、すぐ目の前には怒ったような困ったような顔をした雲雀が、耳まで赤くして膝の上に座り込んでいる。

「今日はずっと邪魔が入ってあなたに触れなかった。さっさと構いなよ。それとも、僕の言う事何でも聞くっていうのは嘘なの」

「嘘じゃねえ!構う!」

邪魔されて、つまらなくて。
触れたくて仕方なくて。

雲雀も同じ気持ちでいてくれたのが嬉しくて、ディーノは自分の膝の上で顔を真っ赤にして膨れる雲雀を、満面の笑みで力一杯抱き締める。

キラキラの髪も、蜂蜜みたいな目も、甘い香りも変わらないけれど、未来の彼はこんな顔を見せてくれなかった。
同じだけど同じじゃない。
やっぱりこっちの方がいい。

雲雀の胸の内を汲んだのかどうか、大好きな唇が寄せられたから雲雀は黙って目を瞑る。
邪魔され続けた一日は、何の邪魔も入らない甘い時間で終わりを迎えられそうだった。



Black Cat Roomの美夜様より、フリリクで頂きました!
本当に美夜様の書かれるお話もディーノさんも雲雀さんも小動物もまるごと大好きなのですが、特に32ディーノさんと22ディーノさんの違う魅力が満載で、そんな二人に可愛がられる15雲雀さんと小動物が見れてすごく嬉しかったです。特にロールたんの扱いが扱いに感動しました…!
そうなんですね、オジリナルは持ってきてしまったのできっと未来の雲雀さんは寂しいだろうなと思います…。
でもヒバードさんがいるからっていうディーノさんの言葉に安心しました。
そして32ディーノさんのいう事にはちゃんと素直に耳を傾ける雲雀さんが可愛いです!
比べてみるとやはり22ディーノさんは子供なところがあって、2215と3225だからこそベストカップルなんだと改めて思いました。
ラストの『構って』という雲雀さんがすごく可愛かったです!
美夜様の書かれる二人は本当に原作の二人そのもので、特に雲雀さんがどんなに悪態ついてもディーノさんにぞんざいでも、すごく可愛いって思っちゃうところが素敵だなと思いますvv文章から滲み出る愛情を直接感じて、幸せな気分になれました。
もちろんヒバードとロールもすごく可愛くてたまりませんでした。
お忙しい中、可愛らしくて、それでいてドキドキするお話をありがとうございました!

2012.04.21



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -