Sedativo-鎮静剤-(ろみ様より/雲雀+ヒバード)


雲雀が重い手で自室の戸を開けると、すぐに声高いさえずりが耳に届いた。

「ヒバリ、ヒバリ」

眼の前を飛び回る黄色いまるい鳥は、2、3度頭上を旋回した後、差し出された指先にふわりと舞い降りた。

重さを殆んど感じさせないその黄色い塊は、鉛のような腕に負担をかけるどころか、逆にその重さを和らげてさえくれるようだ。

雲雀は指の先でさえずる黄色に、もう一方のだらりと弛緩していた手を伸ばすと、その柔らかな羽毛を指先で愛しんだ。

黄色い鳥は気持ちよさそうに眼を細めている。

自然と雲雀の口元に笑みがこぼれた。


これまで数え切れないほどの人間を咬み殺してはきたが、本当の意味で人の生を根こそぎ奪ったのは、まだ片手に余るほどでしか無い。

こんなことを誰かに言ったことは無いが、酷く、疲れる。

『咬み殺す』のとはわけが違う。

ただ、それを表に出さないというだけで、雲雀にも情が無いわけでは無い。

冷酷に、無感情に、武器を振り下ろしているようで、実はそうでは無いのだ。

己の判断に迷いが無いだけだ。

それが雲雀なりの死に対する真摯さだと思っている。

迷いなど死んだ者をも迷わすだけだ。


雲雀は眼を閉じ、深く息をついた。

腕が僅かに揺れた拍子に、指先の黄色い鳥はばさりと飛び立ってしまった。

振動というより身体に染み付いた血生臭さを嫌がったのかもしれない。

「・・・・・」

ほんの微かな重みが無くなった指先に言いようの無い寂しさを感じる。

上げていた腕をだらりと下ろすと、雲雀はまた一つ溜息をついた。

血に塗れた身体を流そうと浴室へ足を向けた時、好きな所へ飛んでいってしまったと思っていた鳥が、またばさばさと羽音を立てながら舞い戻ってきた。

「なに、君まだいたのかい?」

振り返ると、黄色い鳥は小さな嘴に何かを咥えている。

雲雀が手を差し出すと、その鳥はまた当然のようにそこへ舞い降りた。

鳥は雲雀の手のひらに咥えていたものを落とすと、可愛らしく首を傾げてみせた。

「ヒバリ、チ、イタイ」

雲雀は言葉を失った。

手のひらに置かれたものは、一体どこから持ってきたのか、一枚の絆創膏だった。

「・・・っ、君、」

「ヒバリ、イタイ、ヒバリ」

何度も首を傾げ、そうさえずる様が愛らしい。

「・・・大丈夫だよ。これは僕の血じゃないからね。どこも痛くなんてない」

その言葉を理解したのかしていないのか、鳥はもう一度首を傾げ、「ヒバリ、イタイ」とさえずった。

「大丈夫。・・・僕は強いからね」

そう呟いたのは鳥に対してか、自分自身にか。

小さな鳥の小さな労りに、雲雀は素直に「ありがとう」と礼を言って眼を細めた。

機会のように無表情に武器を振り下ろす雲雀に、誰もが畏怖の眼を向ける中、この鳥は変わらずこうやって自分の傍に居てくれる。

その存在がどれほどささくれた雲雀の神経を宥めてくれるのか、この鳥は理解しているんだろうか。

「君は変わらないね」

そう言って雲雀は指先で黄色い頭をそっと撫でた。


その柔らかい黄色の向こうに、やはり変わらず自分の傍に居続ける、同じ色の笑顔を見た気がして、雲雀は一層綺麗に微笑んだ。


Fin.



お誕生日に落書きを送りつけた御礼にと『Fullthrottle』のろみ様から頂きましたvv
メールでいただいたんですけど、もう嬉しくてびっくりしました。
さらに、ヒバードと雲雀さんのお話でさらに嬉しくて嬉しくて>ヒバードの描写がとにかく可愛く可愛何度も読んでしまいましたvvv
羽毛がすごい気持ちよさそうです。
実は目を細めているヒバードが好きなので、想像して楽しんでました。
雲雀さんの奥深くに眠る真摯な描写もすごく凛としていてかっこいいです。
本当の意味で誰かを殺めたときはいつなのだろうってずっと思っていたので…
そんな雲雀さんを癒すように翻弄するヒバードがすごく健気で可愛くってもうぎゅーってしたいって思いました><///
2人の関係がとても素直に伝わってきて、意図せずに心底雲雀さんを心配するヒバードはもちろん、そんなヒバードに優しく接する雲雀さんも愛しくて溜まりません><
すごく可愛くて癒されるお話をありがとうございます。
私のぼんやりしたお話とは大違いの、すごく筋のある素敵なお話を読ませていただいて幸せです!
本当にありがとうございました!

2012.03.21




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