7 ※文中に若干白蘭×雲雀の表現ありますので苦手な方はご注意ください ↓↓ 「ねぇ、いい加減お話してくれないかな?雲雀チャン」 白蘭に連れ去られて、数時間。 大きな屋敷の1室に閉じ込められた雲雀は相変わらずぶすっとしたまま一言も話さず、白蘭を睨みつけていた。 拘束はされていないが、武器のトンファーは奪われ薬を投与されたのか身体がだるく思い通りに動けない。 大きな天窓や扉には幾重にも結界を張られて雲雀の力ではびくともしなかった。 そのことにも腹が立ち、雲雀はだんまりを決め込んでいた。 それに、目の前の男は得体が知れないうえ、どこか嫌な感じがしてたまらない。 ずっとにこやかに笑みを浮かべていた白蘭も雲雀の態度には業を煮やしたのか、今まで取っていた距離を縮めると至近距離で顔を覗き込んでくる。その眼差しに穏やかさは感じられなかった。 「相変わらず強情だねー。でも…あんまりそういう態度取ってると、いけないことしちゃうよ?」 不意に長い指先が頬を掠めるとそれだけでぞくりと嫌な気配を感じた。 ただ触られただけなのに、確実に込められている欲の色を知って拒絶反応したのだろう。 雲雀はこの男を、知っている。 過去にもこれに似たようなことがあった。 「…誰」 「ん?」 「僕に、何の用?」 これ以上無言を貫くのも限界だと雲雀はようやく口を開く。 決して屈服したのではなく、彼が何を企んでいるか知りたかった。骸がいない時にわざわざ浚うようなやり方をして、それだけの価値が自分にあるとは思えなかった。 案の定、白蘭は雲雀が反応した事に嬉しそうに笑う。 「やっと口を聞いてくれたね。一瞬喋れないのかと思ったけど――そんなこと、ないよね。あの時はあんなに良い声で啼いてたみたいだし」 「…っ」 DVDの事だ。 今の自分には覚えはないが、この時代の雲雀と骸がそういう関係だということは雲雀もDVDで知った。 それを白蘭がなぜ知っているかは想像するに容易い。 「なぜあんなもの…」 「ああ、DVD?面白かったでしょ。なにせ骸君とこの時代の雲雀チャンを隠し撮りするのすっごく大変だったんだけどね…1回だけ成功したからプレゼントだよ。お気に召さなかった?」 「知らない」 そのときの事を思い出すと、自然と頬に赤みが差す。 自分にとって骸はライバルでもあり同じ守護者でもあるが――まだそんな関係には至っていない。 骸は会えばそういった甘い言葉を吐いてくるが、雲雀は分からない。好きだとか愛してるとか大事とか…そんな感情は持ち合わせていないから、骸が好きなのかどうかも分からない。 ただ――彼といるのは心地が良い。対等であるが故、遠慮も気遣いもいらないし雲雀の事をちゃんと分かってくれている。 だから、この時代の彼らについて驚きはしたが嫌悪感は感じなかった。 「雲雀チャン」 名前を呼ばれ顔を上げると、頬を生ぬるいものがぺろりと這う。 白蘭に舐められていると知った時には腕を強く引かれ、迫ってくる顔を避けようとしたが白蘭の腕に拘束された状態では徒労に終わった。 「っ…んっ!」 啄ばむように軽くキスをされて、何とか身を捩るがさらに身体を引き寄せられ唇が深く合わさる。 「やっ…」 「ダメだよ、逃げちゃ」 薄く空いた隙間から何とか息をしようと口を開けた所を、白蘭の舌が入り込んでくる。 雲雀にとってキスはこれで二度目だ。ろくに経験のない状態では、何がどうなっているか分からない。 ただ舌を吸われしつこく絡んでくる白蘭を拒めず、次第に嫌悪感から眦に涙が溜まる。 けれど白蘭は唇を鎖骨に移動させるときつく吸い上げた。 「ぁ、ん…!」 ようやく解放された唇から漏れた声に、雲雀は慌てて口を抑える。 それはDVDから漏れた、あの声そのもの。 「やっぱり可愛いね。ほら、泣かないで」 「や、だ!」 ようやくどん、と白蘭の身体を突き飛ばすと、肩で大きく息を吐いた。 「なに、なにがしたいの」 こんなこと、本気だとは思えない。 現に白蘭はずっと笑っている。情も欲も感じられない。 ただ――面白がって追い詰めているように見える。 「へぇ?好きだからじゃダメかな?」 「ふざけるな」 雲雀が怒りを込めて睨むと、白蘭は苦笑いを浮かべながら「だよねぇ」と嘆息した。 「本当はこんな事するつもりじゃなかったんだけど、あんまり雲雀チャンが可愛いから。君のいうとおり、待ってるんだよ。君と同じものをね」 「骸はモノじゃない」 咄嗟に出た言葉を、白蘭が面白そうに口元を緩ませた。 「ふーん。やっぱり雲雀チャンは骸君を待ってるんだ?差し詰め囚われのお姫様…ってところかな?」 「…咬み殺す…!」 これ以上からかわれて黙っているわけには行かない。 雲雀は着衣を正すと、拳を握り締めた。 トンファーがなくても、戦える。 そんな雲雀の行動も想定内なのか、白蘭がその笑みをより深くさせた、その時。 小さな部屋に大きな爆音が轟いた。 2012.2.24 |