記念日制定2 コンコン、とノックが応接室に響く。入ってきたのは校医のドクターシャマルだ。 「ほらよ。おじさん、こんなのしか持ってねーから。もうアイツをこっち寄越すなよ!」 ぽん、と投げてきた紙袋には何かボトルのようなものが入っていた。 不信感を露にした委員長の鋭い視線に怯みもせず、シャマルは面倒くさそうに耳をほじくっている。 「…なんの話だい」 「なにって、あのひよこに決まってんだろ。ったく、ロールロールうるせえったらねぇよ。せっかくかわいこちゃんとデートだったってのに…」 ぶつぶつと恨み言のような独り言を呟きながら、ドクターシャマルは早々に部屋を出ていってしまった。 「ひよこって、ヒバードのこと?」 「おそらく…」 「朝から見かけないと思えば、なにしてるんだ。ヒバードはひよこじゃないよ」 委員長、突っ込みどころはそこじゃありません。…と突っ込みを入れたかったけれど、機嫌を損ねそうなので受け取った紙袋を開いた。中身は大人が使うと思われるローションだ。 そのまま紙袋を再び閉じて、処分してきますとゴミ箱に捨てた。 あのおっさんは中学生になんてモンを渡すんだ。 次に現れたのは、学校のアイドルである笹川京子だった。 「ヒバードちゃんから、ロールちゃんが誕生日だって聞いて」 急なことだったからと、可愛い包み紙にくるんだ調理実習で作ったカップケーキを渡された。 「ヒバードが?」 「いろんな人に教えて回ってるみたいでしたよ」 にこにこと愛らしい笑顔を溢した笹川京子の話を聞いて、ようやく不思議な訪問者たちが次々とやってくる理由が分かった。 同じ飼い主に飼われている弟分としてロールを可愛がってるヒバードは、彼なりにロールを祝ってやりたいらしい。 キュートな外見とは裏腹に、意外と狂暴な一面を見せることのあるヒバードは、男には嘴で攻撃しながらしつこくロールの誕生日をアピールし、女性には可愛らしさでおねだりしたんだろうと察しがつく。あれはとても賢い鳥だから。 その後も、応接室に入る勇気のない学生はドアの前にプレゼントを置いて行ったり、委員長へ直に渡せないからと風紀委員に預けたりとロールへの贈り物が文字通り山のようになった頃、群れるのが死ぬほど嫌いな委員長の機嫌は底辺を這っていた。 「なんなの一体。次に見つけたら咬み殺す…っ」 「みんなロールをお祝いしてくれているんですよ」 「そんなの僕らだけでいいよ」 …次に来たやつは可哀想だな、とまだ見ぬ訪問者を哀れんでいると、やってきたのは沢田綱吉とその一行。 彼の間の悪さは天下一品で、こういった場面に出くわすことが多かった。 「あ…あのー、ヒバードから話を聞いてですね…」 扉があいた瞬間、有無を言わせずトンファーが沢田を目掛けて撃ち込まれた。 …が、沢田は寸でのところでそれをかわす。今までのバトルで反射神経だけはかなり養われたようだ。 「んなーー!ちょ、雲雀さんっ!!落ち着いてくださいっ」 「テメェ雲雀!10代目になんてことしやがんだ!」 「はは♪相変わらず元気なのなー」 「――僕は今、最高に機嫌が悪いんだ。君でいいから相手しなよ、沢田綱吉」 容赦なく叩きつけられる鉄の棒にこのままでは闘えないと思ったのか、沢田は口に何かを含むと額にオレンジの炎が煌々と灯る。 人が変わったような目付きになると沢田は委員長のトンファーを片手で受け止め、お互いににらみ合った。 「ワァオ、そうこなくちゃ面白くないね」 「――どういうつもりだ、雲雀」 「朝から群れがやたらとうちにきてイライラしてたんだ。相手しなよ」 「そんな理由ならお断りだな。俺はヒバードからロールの話を聞いて来ただけだ。闘う意思はない」 「君の意思は関係ないね。僕が闘いたいから闘うだけだ」 その時。 クピピ!とロールが大声で鳴いた。 全員が声に振り向くと、ロールと沢田の匣アニマルのナッツが、獄寺の匣アニマルの瓜に追いかけられていた。 「ガゥ、ガウゥ!」 「キュキュー!」 「瓜!テメェなにしてやがる!」 「にょおおー!」 飼い主が諌めたところで当の瓜は聞く様子もなく、ドタバタと応接室を駆けずり回る。 「あれ?開匣したほうがいいのか?んじゃ俺も次郎と小次郎出そっと」 「止めろ野球バカ!そんなんじゃね…っ」 「ワンワン!」 「ピィィ」 雨属性の柴犬・次郎と雨燕の小次郎まで現れてにわか動物園と化した室内に、騒ぎを聞き付けたヒバードがやってきた。 「ロール、タンジョビ。ナカヨク、オイワイ!」 ぴた、と動物たちの動きが止まる。 …ヒバード、お前は一体何者なんだ。 「ハーピバースデートゥユー♪」 「ピィっ」 「ワオン♪」 ヒバードの歌に次郎と小次郎が合いの手を入れる。 その光景に毒気を抜かれた委員長はトンファーをおろし、沢田の死ぬ気の炎も消失した。 「…みんなのほうが、良くわかってるみたいですね」 そういって、沢田は委員長にロールあての贈り物を手渡した。 納得してない表情ではあったけれど、委員長はロールの手前、仕方ないなと渋々自分のデスクに戻る。 「ハーピバースデー、ディア、ロールー♪」 「がぅ!」 「ピィー」 「ワォー♪」 「にょおーん」 動物たちに囲まれ祝福を受けたロールは、嬉しそうな鳴き声をあげた。 「ハーピバースデー、トゥー、ユウゥウー♪」 …随分、語尾に外国人歌手ばりのアレンジを利かせたヒバードはオメデト、オメデトと飛び回る。 丁度、山のようなプレゼントには動物たちが食べられそうなおやつもあることだし、折角ロールの友達がお祝いにきてくれたんだからもてなしてやるか。 黙って書類を整理し始めていた委員長は、ロールの喜ぶ姿を見てなにも言えないようだった。 ということは、ロールのお誕生会のお許しが出たらしい。 「よし、いま食べるもん出してやるから、仲良く待ってるんだぞ」 「クサカベ、ゴチソウ、ゴチソウ!」 「にょ!」 「エサに釣られてんじゃねえよクソ猫」 「まあまあ獄寺くん。すいません草壁さん、お騒がせしちゃって…」 「俺も腹減ったなー」 「山本までなにいってんの!」 委員長の許可があるなら構わないし、何より主役のロールが喜んでいるなら問題はない。 今朝のロールケーキを取り出して人数分に切り分ければいいかと、俺は備え付けのキッチンへ向かう。 「良かったな、ロール」 「クピピっ」 みんなで祝う誕生日が、彼にとって幸せな思い出の1ページになればいいと、願わずにはいられなかった。 2012.06.06 |