わんぱく 「クアァ!」 ディーノが不在のキャバッローネ邸。ペットである亀のエンツィオは突然の来訪者に、嬉しそうに声をあげた。 その主はもちろん、黒のスーツに身を包んだ雲雀と黄色い小鳥のヒバード。 「やあ。エンツィオ、元気だった?」 「クァ!」 「ピイ」 いつものようにヒバードがエンツィオの背中に乗り遊び始める。雲雀がこの部屋にやってくると二匹は仲良く遊ぶのが習慣となっていた。それはディーノを待つ雲雀の読書の邪魔をしないように、だったが、この日は違っていた。 「ヒバリヒバリ!」 「クァァ!」 自分の名を呼ぶ声に、雲雀は書物から顔をあげる。 「どうしたの」 「ヒバリ、ヒバリ!」 二匹が遊んでいるうちにディーノのデスクから落ちてしまったそれは、何かの箱の様だった。落下した拍子に中味が床に散らばってしまい、雲雀はその1枚を手に取る。 「…なに、これ」 雲雀が手にしたのは、写真だった。それも、中学生の雲雀。さらに付け加えると屋上でヒバードとエンツィオと戯れている姿。焦点が合っていないことから、完全な隠し撮りであることが分かる。 「あの…跳ね馬…!」 まさか、こんな趣味があるとは思わなかった。確かに写真を撮りたいと言われたことはあるし、その素振りは幾度となくこの目で見てきたが、雲雀は一度も許したことがない。 だからといって、隠し撮りをするなんて。 念のため箱の中味を漁ると、殆どが雲雀の写真だった。 彼がいない間に、燃やしてしまおう。こんなものが残っているかと思うと腹立たしい。 そう決めた雲雀が立ち上がったときだった。つん、と何かに引っ張られる感覚に振り返るとエンツィオとヒバードが雲雀のズボンの裾を掴んでいる。 「なに、君達?」 「ヒバリ、ヒバード!カメ!ウマ!」 「クァ!」 「…これが欲しいの?」 「イッショ、イッショ!」 二匹が懸命に訴える様に、雲雀はしばらく考え込んでいたが――あまりにも必死な様子に、苦笑いを浮かべる。 「分かったよ。確かに君やエンツィオも映ってるしね」 考えてみれば自分の写真をわざわざ焼くこともない。ヒバードやエンツィオにしてみれば、自分達の姿があることが興味深いんだろう。じーっと眺めては楽しそうにしている。 その時、胸元の携帯電話が鳴るとディスプレイにはボスである綱吉の名前が浮かんでいた。頼みたい仕事があると言っていた事を思い出し、長くなりそうだと部屋を後にした。 * 「…んだ、これ!」 「だから、エンツィオだろ。何回、言わせるの」 あれから戻ってきたディーノと仕事の話をした雲雀が部屋に戻ったのは、夕刻過ぎ。二人の目に飛び込んできたのは、部屋中に散らばる――無数の粉々になった写真。 端っこではエンツィオがさらに写真を口にくわえちぎっていた。 「エンツィオオ!!!お前、なんてこと…」 「クァ!」 「クァ、じゃねーよ!」 「自業自得だね。隠し撮りなんてするからだよ」 「…い、いーだろ。遠距離恋愛には欠かせないだろ。写真は」 「…変なことに使ってないよね」 「へ、変なことってなんだよ」 動揺するディーノに、雲雀は冷たい眼差しを向ける。思いっきり怪しいのは明白だ。 「不潔だよ」 「不潔ってなんだよ!仕方ねーだろ、本人がいねーんだから!」 「大体あなたはね…」 そんな不毛をやりとりする二人の背後で、エンツィオが写真をちぎりながら楽しそうに二人の様子を見守っていた。 2012.4.9 |