甘いケーキと可愛い君と。 「なにしてんだ、恭弥」 「また来たの。マフィアって本当にヒマなんだね」 「これでも恭弥に逢いたくて、頑張って時間作ったんだぜー?」 「だったら来なきゃいいんじゃないの」 「俺が恭弥に逢いたいんだよ」 逢うたびに繰り返される、言葉あそび。 俺が「逢いたかった」と言えば、恥ずかしがり屋の恭弥は「鬱陶しい」なんて強がるけれど、いつも白磁のような頬はほんのりピンク色に染まった。 だから本当は恭弥も俺に逢えて嬉しいんだって伝わる。 言葉あそびの結末は毎回、会えなかった時間を埋めるキス。 恭弥の薄い唇をしっかり堪能して、軽く抱き締めたまま、机に転がっていたそれに再び目をやった。 「…で、マジでなにやってんの?」 「今日はロールケーキの日なんだって」 「はぁ?ケーキに記念日なんかあるのかよ。ショートケーキの日とかモンブランの日とか」 「他は知らないよ。ただ、ロールが喜ぶかなって」 恭弥は動物たちに、すごく甘い。 見ていてヒバードやロールが羨ましくて歯ぎしりしてしまうほど、優しく接している。 それだけ恭弥が愛情を注いでいる現れだった。 動物たちに餌をやったり、指先で戯れたり、そんな恭弥を見ていると本当に全部ひっくるめて可愛いと思う。 だからきっと、今日が「ロールケーキの日」だって知った恭弥が、ロールのために何かしてやりたいって思ったんだろう。 可愛い。 そんな恭弥が心から愛しいと思う。 「だけどなぁ、これはどうかとおもうぜ?」 「そう?」 恐らく草壁辺りが用意したんだろう。 簀巻きのようにスポンジケーキにくるまれ、さらに紐でしっかり固定されて身動きが取れなくなった匣アニマルのロールが机上で固まっていた。 その横でスポンジケーキをつつくヒバードは、まるでロールを食ってるみたいで、なかなかシュールな絵面だと思うんだけど恭弥は表情に出さないものの幸せそうだし。 まぁこれはこれでいいかと、恭弥の肩を抱いてヒバードがロールを食らう姿を眺めた。 (…やっぱシュールだよな) 半泣きのロールが解放されたのは、ヒバードがスポンジ生地をすべて食いきっておなかがポンポンになってからだという。 2012.06.06 |