sweet2*roll-2


コンコン、とノックが響く。
許可していないのに入ってきた強者は、3つも4つも紙袋を携えたハルと京子だ。

「また君たちか。何の用?」
「はい!お約束通りスペシャルロールを買ってきましたぁ」

そんな約束をした覚えはなかったが、ずんずんと無遠慮に上がり込んできたハルは応接室の中央にあるローテーブルに紙袋をがさっと置いて、その中の1つから白い箱を取り出した。

「皆さんで召し上がってくださいね!あ、ナイフとお皿をお借りできますか?雲雀さんに食べてもらいたくて」
「勝手に何してるの」
「これが奇跡のロールですよ!」

大きな黒目をさらに大きく見開いて、ハルは雲雀に力説を続けた。
甘さが絶妙だとか、生地のふんわり感だとか、雲雀にとってどうでもいい情報をつらつらと並べ立てるハルに、いい加減堪忍袋がブチ切れそうだ。

こうなれば実力行使で追い出そうと立ち上がった、その時。

「クピピィ?」

雲雀の腕から降りたロールがハルのもとへと近づく。

「わー、かわいい!ハリネズミだぁ」
「はひっ!?すっごいキュートです〜」
「キュキュー」

普段は人見知りがちなロールなのに、女子たちに囲まれても怖がらなかった。
好奇心旺盛なハリネズミは机にある円柱型のモノが気になるらしい。

「お名前はなんていうんですか?」

ハルの質問に答える気はなかったのに、ヒバードが「ナマエ、ロール、ナマエ、ロール」と部屋を飛び回り教えてしまった。
机によじ登ったロールの隣に、綺麗に着陸したヒバードがひよこまんじゅうよろしく腰を落ち着ける。

揃った2匹の余りの愛らしさに、女子から歓声が止まらない。

「ロールちゃんっていうんですね!ベリーキュートですぅ〜」
「だねー。ヒバードちゃんも可愛いね」
「ピィ」
「キュキュ」

ヒバードもロールも褒められてまんざらじゃないらしい。
動物たちが誰かになつく姿は雲雀にとって面白くなかった。

「君たち、いい加減に――」
「今日はロールちゃんの日ですね!」

…はァ?
ハルの突拍子もない発言に、雲雀は目が点になり開いた口がふさがらない。

「6月6日はロールケーキの日なんですよ。だからロールちゃんの日!ロールちゃん、これがナミモリーヌのロールケーキです。美味しそうでしょ?」鼻を近づけてくんくん匂いをかぐロールとヒバードは、甘い匂いのするケーキに興味津々のようだ。

「変なもの食べさせないでよ。お腹を壊したりしたら、ただじゃおかないからね」
「わかってますよぅ。ごめんなさいロールちゃん、ヒバードちゃん。今日は私たちで頂いちゃいますね」
「クピィ〜…」
「ザンネン…」

草壁が持ってきたナイフと小皿を受け取った京子は、適度なサイズに切り分けて雲雀たちにケーキを差し出す。

(副委員長、なに勝手なことしてるんだ。後で咬み殺す…)

そんな恐ろしいことを考えているとは露知らず、京子はニコニコと皿を雲雀のデスクに置いた。

京子は並中のアイドルだ。

二重のぱっちり目と整った容姿、少し抜けているが明るい性格から男子学生の攻防は激しい。
本人の意に介さないところで争奪戦が行われ、その仲介役(という名の風紀の取り締まり)に雲雀は何度か出向いて、男子学生に鉄拳制裁を加えた経験がある。

別に恋愛には興味ないが、確かに京子は人の気を荒立たせない物言いをする。
だからつい、彼女が持ってきたロールケーキを一口食べてしまった雲雀だった。

「!!!?」
「どうですか?美味しいでしょ!」

美味しい、なんてものじゃない。
――甘い、甘すぎる。もったりしたしつこい甘さが嘔吐感をもたらした。

一口だけなのに、雲雀は思わず手で口を覆って俯いた。
しかし育ちがいいのか、口に入れたものを出せない性格の雲雀は、とにかくそれを無理矢理のどの奥に流し込んだ。
余りの衝撃に背中からどっと汗が吹き出る。

「声も出ないくらい感動しちゃいましたか?」
「わかるなー。私も初めて食べたとき感動したもん!ね、ハルちゃん」
「確かに美味しいですね、委員長」

…君たちの味覚が異常なんだよ。

と、言いたくてもなにか出てしまいそうで言えないでいると、またしてもハルが

「良かったですねーロールちゃん!雲雀さん、ロールケーキ大好きなんですって」
「キュ!クピィー♪」
「おんなじお名前だから、ロールちゃんも雲雀さんにロールケーキを好きになってほしいですもんね!」
「クピクピ!」

…と、とんでもないことを言い出した。
ロールの機嫌があっという間に治ってしまう。かたや雲雀はどんどん青ざめた。
フラストレーションは溜まっていく一方だ。

――これ以上は、堪えられない。

「委員長、どちらに?」

突然立ち上がって部屋を出ていこうとする雲雀に草壁が声を掛けると、少し振り替えって何も言わず立ち去っていった。

「…どうしたんでしょう」
「なにか急いでたのかな」
「キュー」
「ヒバリ、ヒバリ」

ぽかん、と開いたままのドアを見つめても答えてくれる人物はおらず、ハルと京子は「また遊ぼうね」と動物たちをひと撫ですると、仕方なく応接室を出た。


「ツナさんたちまだ学校にいますかねー」
「ツナくんは補習だって言ってたし、獄寺くんもいるんじゃないかなー」

ハルは沢田家用、自宅用、自分用のロールケーキを持ってルンルン気分だった。

雲雀だけでなく、もちろん愛するツナにも食べてもらいたくて買っておいた。
もしかしたら良くできた嫁だと、ツナから褒めてもらえるかもしれない。

現実にはあり得ない妄想に想いを馳せていると、ドカン、とけたたましい音が校内に響き、二人はビックリして辺りを見回した。

…ツナたちを待つよりも、早々に学校から退散した方が良さそうだと判断した二人は、足早に危険な香りがする校舎から逃げ出す。


――どうしようもない怒りの矛先をハルの仲間内の責任者(?)である沢田綱吉になすりつけて、雲雀がツナを咬み殺している最中だった。

彼女たちがそれを知るのは、ボロボロになったツナを獄寺が沢田家へ連れて帰ってからだという。

2012.06.06



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