記念日制定1


今朝、テレビを見ていると「6月6日はロールケーキの日」だと情報バラエティ番組が報じていた。
ケーキに記念日なんてあるのか、記念日好きの日本人らしいなと少し笑ったが、「ロール」と聞いて俺はある動物を思い起こした。

…そういえばロールはいつ生まれたんだろう。

分からないのであれば、今日をロールの誕生日にしてやればいいんじゃないか。
誕生日ならばケーキとプレゼントを用意しようか。
せっかくだから、彼と同じ名前で今日が記念日らしいロールケーキ。あと大好物のちくわも。
そうすれば、あの可愛らしいハリネズミもキュウキュウ嬉しそうな鳴き声を上げて喜ぶに違いない。

その姿を想像していると顔が弛んでしまいそうだった。

早速それを実行すべく、朝食を済ませると俺は学校へ向かった。


「…なにしてるの、副委員長」
「委員長、おはようございます。いまパーティーの準備を」
「――?」
「今日はロールケーキの日なんです」
「…それがなに?」
「ですから、ロールは誕生日も分からないので今日をロールの誕生日にすれば喜ぶかと」

――外してしまっただろうか。
並盛中学の風紀を取り締まる風紀委員長、雲雀恭弥さんは普段こんなことをするときっとすぐさま咬み殺すだろう。

だけど彼は動物にはとても寛容だった。
だから「ロールの誕生日にしよう」と提案すれば、許してもらえるんじゃないかと思ったんだが。

鋭い視線に背中が凍りつく。

風紀の拠点にしている学校の応接室にはいわゆるパーティーグッズで飾られ、扉を開けた正面には「ロール誕生日おめでとう」と書いた看板に、ティシュで作った花をあしらったけれど全て無駄になりそうだ。

委員長の肩から、今日の主役のロールがいつもと違う部屋の雰囲気に「クピ?」と首を傾げていた。

「ふぅん。それでこんなことしたの」
「は…はい。お気に召しませんか」

机にはロールケーキと、ロールの大好物のちくわの山。それに気づいたハリネズミは嬉しそうな声を上げたが、俺は今まさに死の危険に直面していた。

…最期にロールの嬉しそうな顔が見れただけでも、準備した甲斐があるってもんだ。
今までの人生が走馬灯のように甦る。心の中で世話になった奴等や委員長にありがとうと告げて、咬み殺されるのを覚悟していたのだが。
「やるじゃない、副委員長」
「えっ!?」
「いいね。ロールはいつ生まれたかわからないし、彼も喜んでる」
「あ、はい!!ありがとうございます!」

委員長は表情が読みにくいけれど、許可がもらえたとわかってホッと胸を撫で下ろす。俺の人生はまだ続くらしい。

「クピクピー!」
「うん。ぜんぶ君のだから食べてもいいけど、一気に食べてお腹壊さないようにね」
「キュ!」

中央の低い机にレースをあしらった白いテーブルクロスをかけて、デコレーションされたロールケーキには1本の蝋燭と「ハッピーバースデーロール」の文字をあしらったネームプレート。
あとはロールが好きなメーカーのちくわを正面から見れば「山」の形になるよう左右に並べた。

ロールは早速机に上がると、瞳を輝かせどれから食べようかと小さな足を忙しなく動かしてちくわとケーキの間を行ったり来たりしていて微笑ましい。

「それにしても、朝からよくこれだけ準備できたね」
「はい。ロールケーキの本体は買ってきましたが、デコレーションは自分がやりました。あとは家にあるもので飾りつけをしまして」
「あの看板も?」
「あれは学校の備品です。去年の文化祭で使われたものに紙を貼って、その上から文字を書きました」
「…そう。器用なんだね」
「ありがとうございます!」

一瞬、言葉を失った委員長の眉間にシワが寄ったように見えたが、気のせいか。

さっそくちくわにかぶりついたロールを、ローテーブルに近いソファへ腰掛けた委員長はただ黙ってロールを見つめていたけれど、いつもならどす黒いオーラが見えるのに今日は花が舞っているように感じた。
嬉しそうな小動物をみて、きっと委員長も喜んでくださっているのだろう。ここまで準備して良かった。

委員長のための紅茶とロール用の飲み水を鼻唄混じりで用意していると、毎朝日課になっている散歩から戻ったヒバードがやってきて「ゴハン、マダ?」とせがんできた。

「今日はロールの誕生日会をしてるんだ。ヒバードのエサも向こうに用意してあるぞ」
「ロール、タンジョビ」

なぜロールの誕生日なのかヒバードにも説明すると、「ピピィ!」と鳴いたヒバードが再び窓の外へ飛んで行ってしまった。

「おい、どこに行くんだヒバード!」

いつもは優雅に飛び立つヒバードが、バサバサバサと慌てているように羽根を忙しなく動かしてどこかへ消えた。

――その理由に気づくのは、放課後のこと。




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