また、あした 「じゃあ、帰る」 修行の後、ディーノと一緒に個室で食事を満喫していた雲雀は、時計をちらりと見やって言った。 「そうだな。明日は学校だろ」 中学生を遅くまで引き止めないだけの良識はあるらしく、ディーノはかけてあった雲雀の上着をとってやる。 それには答えずに黙々と帰り支度をする光景もいつもどおり。 「さ、帰るよ」 雲雀がそう声をかけたのはもちろんディーノではない。二人の足元で亀のエンツィオと戯れていた黄色い小鳥だ。 いつもなら直ぐに雲雀の肩へ飛んでくるのに、今日は違った。雲雀が屈んでもエンツィオから離れようとしない。一瞬具合でも悪いのかと思った矢先。 「ヤダヤダ」 「…やだって、君。ずっとここにいるの」 「カメ、カメ。ヒバリ、ヒバリ」 「僕はもう帰るよ。エンツィオももう帰るんだから」 「ヒバード、ココ」 「あのね…」 埒のあかない会話に雲雀が苛立ちを見せ始めたときだった。ディーノが間に割って入る。 「まぁまぁ。ヒバードはエンツィオと離れるのが嫌なんだよな?いつも遊んでるから寂しいんだな」 「…亀と鳥だよ」 「ただの亀と鳥じゃねーだろ?――いいか、ヒバード。楽しい言葉を教えてやる」 「ピ?」 「そういう時は、『また、明日』って言うんだぜ?」 「マタ、アシタ?」 「言ってみな。『また、明日』って」 「マタ、アシタ!」 「そうそう」 ディーノの言葉に、ヒバードは嬉しそうに繰り返した。その後ろではエンツィオが「クァ♪」と喜んでいる。 「マタ、アシター」 言いながらヒバードは雲雀の肩に降り立った。意味など分からないだろうに、エンツィオに何回も「マタアシタ」を囀る。 「…明日、帰るくせに」 「言うなよ。嘘はいってねぇ」 寂しそうに紡ぐ雲雀に、ディーノも一瞬表情を苦そうに歪ませたが直ぐに笑みを取り戻す。 「恭弥も言ってみな?また明日、って」 「絶対言わない」 「ははっ、だろうな」 大して気にもせずディーノが笑う傍らで、雲雀は心の中で悪態をつく。 (嘘つき) 明日にはイタリアに帰ってしまうくせに。 それなら明日なんて来なければ良いと思う自分は、『また明日』なんて嬉しい言葉でも何でもない。 だけど。 ディーノが笑うなら、今度の時に言ってやっても良いかなとも思う。 確かに魔法の言葉のようにヒバードを幸せにしてくれたから。 また明日。 言葉に魂が宿っているなら、離れた距離も寂しくないと思った。 2012.4.5 |