小さなキス


あのひとが好きだと自覚してから、雲雀の生活は一変した。
いや、生活と言うより心が忙しくなった。
ドキドキしたり、苦しくなったり、嬉しくなったり。
時にはきゅ、と締め付けられることもあってそんな時は庭に出る。
そこには、雲雀の大好きな天馬がいたから。

「スクーデリア」

雲雀が近寄ると、美しい白の鬣を持つ白馬は嬉しそうにひと鳴きして雲雀の顔をぺろりと舐めてきた。
最初はそんな抱擁に慣れていなかった雲雀も、今ではそれが嬉しくてくすぐったそうに身を捩る。
そしてひとしきり挨拶を終えると、スクーデリアは雲雀を包み込むように体を折りたたむ。

「今日はあのひと、いないんだって。何でも日本に仕事で行ってるってマイケルが言ってた」

雲雀が話し始めると、スクーデリアは大人しく話を聞いてくれる。
耳を傾け、雲雀が悲しそうな顔をすると顔を寄せてきたり、頬を舐めてくれる。
雲雀がディーノを好きだと自覚したのも、スクーデリアが教えてくれたからだ。

「この前、女の人とキスをしてたよ。それ見たら、なんだか胸がきゅってなった。これも好きって事?」

雲雀が訪ねると、スクーデリアが小さく頷く。

「そっか。キスってどんなのかな、まだしたことないから分からないけど」

「ヒヒーン」

スクーデリアが小さく鳴き、体を起こした。

「スクーデリア?」

すると、スクーデリアがいつもの頬にではなく、ディーノがしていたのと同じ場所をぺろりと舐め上げた。
何度も何度も、確かめるように。
そして、今度は雲雀がちゅ、と音を立ててスクーデリアにそれを返す。

「これがキス?」

鬣を撫でながら雲雀が問うと、スクーデリアが顔を摺り寄せてくる。

「気持ち、良いね」

スクーデリアとのキスはあたたかくて気持ちが良かった。
こんなキスは何度だってしたいと思う。

(あのひとのも、こんなに気持ちよいのかな)

想像するだけで胸が熱くなる。熱が、こもる。

「ヒバリ、ヒバリ」

スクーデリアを独り占めしていると、屋敷からヒバードが飛んできた。

「チュ、チュっ?」
「君もしたいの?」
「シタイ、シタイ!」

指先に止まった小鳥の頬にも小さくちゅ、とキスをすると、ヒバードは嬉しそうにぱたぱたと羽を広げた。

「スキ、スキ!」
「うん、君とも気持ちいーよ」

雲雀が笑顔を見せると、ヒバードは今度はスクーデリアとも抱擁を交わした。
そんな愛らしい光景を見て、漏れるのは最近知った、笑顔。
小動物やスクーデリアと戯れていると心がぽわぽわする。暖かくなる。

こんな気持ちを抱くなら。

いいや、あの人がいなくても。

まだしばらくはこのままで充分だと、ディーノへの気持ちをそっとしまいこんだ。


2012.05.23

キスの日ということで。



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -