孤高の存在(ちこ様/ザン雲)


「――で?こんな所まで呼び出してどういうつもりかな」

シックなパープルのシャツに質の良い漆黒のジャケット。短く切りそろえられた形の良いさらりと舞う髪を揺らして、雲雀恭弥は目の前の男を見やった。

「またファミリーを壊滅したそうだな」
「へぇ、さすがに情報が早い」

まるで何もかも射抜くような鋭い視線を湛えたその男――ザンザスは、雲雀の言葉にも気にした様子はなかった。
ボンゴレきっての最強の暗殺集団・ヴァリアー。そのボスであるザンザスの圧倒的な威圧感を前にして、一切動じず対等に渡り合えるのはこの雲雀くらいだろう。
もちろん、ザンザスもそれが分かっているからこそ、スクアーロの反対を押し退け出向いてきたのだ。
それが数時間前の事。

「あれは俺たちヴァリアーの獲物だと沢田綱吉から聞いてるが」
「知らないね。あれは僕の獲物だよ。現にこうして歯向かってきた事だし」

可愛げのない口元は相変わらず動揺を見せない。ザンザスと付き合いの長いヴァリアーの連中でさえ、顔色を窺いながら言葉を選ぶというのに。
淀みのない漆黒の双眸は揺るぎなく目に映るありのままだけを捉える。その強さは嫌いではなかった。

だか、それはそれだ。甘やかす道理はない。

雲雀が壊滅させた組織は、最近力をつけてきた敵対ファミリーだった。相手にするほどの規模ではないが、その前に上下関係を力で見せ付けると言うやり方はザンザスにも分かる。それがマフィアの世界で生き抜く術でもある。
しかし、ボンゴレ10代目は違った。あくまでも話し合いで解決し無意味な争いは避ける。その事は守護者である雲雀にも分かっているはず。
それなのに命令に背き、適当な理由をつけ壊滅させた。
雲雀の行動はファミリーにとって脅威である。だが、孤高の存在である雲の守護者の領域は沢田でさえ制限不可能な聖域でもある。
それはボンゴレよりもヴァリアーに通じるものがあった。

「おかげでこっちは足止めを食らった。どうしてくれる」
「知らないといったよ。話がそれだけなら、帰る。これでも忙しいんだ」

踵を返す雲雀にザンザスの身体がぴくりと震える。そして雲雀が瞬きする間もなくその前に身体を滑らせた。

「話はまだ終わっていない」
「…ずいぶん、しつこいね」

さすがに表情を変えた雲雀に、ザンザスはゆるりと笑った。
そして、胸元から小箱を取り出し、雲雀に投げつける。それは下に落ちるより早く雲雀が掴んだ。

「…なに」
「てめえのだ。ヴァリアーの雲のリング」
「いつから僕はヴァリアーになったのかな」

雲雀の揶揄にザンザスはさぁな、と返すとマントを翻し背中を向けた。

「てめぇにここは綺麗すぎる」

その後姿が消えるまで、雲雀は動けなかった。
いや、動かなかった。
そんな事は分かっている。ボンゴレファミリーは、いつでも雲雀の神経を逆なでする。思うままに動けず、少しでも賛同の意を表せば子供のように嬉しがり、笑う。
そんなファミリーは、雲雀には重すぎた。

だが、ボスである綱吉の事は嫌いではない。守護者の連中も鬱陶しいとは思うが雲雀の事を良く知り、ザンザスのように胸中を抉ったりはしない。

(行き場、なんて)

どこでも良い。ただ、今から別の地に踏み入れるのが面倒なだけだ。


『ここには、綺麗すぎる』


雲雀は口元をきゅ、と噛み締めると、手にしていたそれを開けることなく胸元へ納めた。

「くだらない…」

誰に求められても、心は揺らがない。
ただ自分のしたいようにするだけだ。相手がだれであろうと、それは変わらない。

その思いを促すように一際強い風が、頬を撫でるように舞った。


→リク内容:「雲雀&ザンザスの話」


2012.05.09



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