ポッキーゲーム(匿名様/DH+針)


「キュ!」

ある晴れた昼下がり。
ロールがたどたどしい足取りでそばまでやってくると、珍しいものをくわえていた。
通常ならばありえないそれに、さすがの雲雀も眉を顰める。

「どうしたんだい、ポッキーなんか口にくわえて」

好物がちくわだったり、人間の食べ物に興味を持ちたがるロールだったが、さすがにポッキーなどの加工物を口にしたことはない。体に悪いだろうからと与えたこともないし、いったいどこでそんなものを――と思っていると、いきなりそれを差し出してきた。

「キュ♪」
「僕にくれるの?」
「クピ!」
「ありがとう」

礼を言って受け取ろうとしたものの、いつまでたってもロールはポッキーを離そうとはしない。だが雲雀に渡そうとしているのは明らかで、どうしたものかと惑っていると、静観していたヒバードが助け舟を出してくれた。

「イッショ、イッショ!」
「え?」
「タベル、イッショ!」

どうやら一緒に食べようということらしい。
ロールの意図を知った雲雀は苦笑いを浮かべると、

「まるでポッキーゲームだね。まあ、良いけど」

小動物の可愛らしい誘いを無碍にできるはずもない。雲雀が差し出された端に口をつけると、ロールも嬉しそうにガジガジ、と食べ進み始めた。同じように雲雀も口を動かし始めた時。


「あーーーーーーーー!!!!!!」


室内に轟くような叫び声が響き、ロールがびっくりして口を離した際にポッキーが無残にも床に落ち砕ける。

「キュウウウウ」
「ダメだよ、汚い」

慌てて食べようとするロールを抑え込み、雲雀は元凶の元をきつく睨みあげた。

「ちょっと、ロールがびっくりするじゃないか」
「恭弥、お前、何してるんだ!」
「なにって、ポッキーを食べてただけだよ」
「だけ、って…ポッキーゲームだろ!」

ディーノがわめきながら近寄ってくると、ロールは怯えて雲雀の陰に隠れてしまった。怯えているというよりは――威嚇して、のほうが正しいかもしれない。その証拠に武器である針がつんと堅く上を向いている。

「ロール、大丈夫だから」
「大丈夫じゃねーよ。おま、相手がロールだからって気を許すな!」
「…頭でも沸いてるの」

心底呆れたような雲雀に、ディーノはロールを無理やり抱き上げると傍らいたロマーリオに押し付けた。

「ロマ、頼む」
「はぁ?…イテッ!」
「グピピピピ!!!!」
「こら、やめろ!いてぇ!っていうか、ボス…あんたいったい何したんだ」
「何もしてねーっての。見てただろ?コイツが急に――」

言うなりロールが再びディーノに攻撃を繰り出してきて、室内に奇声が轟いた。

「クピイイイっ!」
「こらっ、ロール!やめろってのっ」
「タノシイ、タノシイ!」
「ヒバードもタノシイ、じゃねえ!」

一見小動物と戯れているようにも見える、風紀財団の執務室。そんな暴風雨から少し離れた場所で、呆れたようにため息を漏らすのは二人の腹心の姿。

「ありゃ、やきもちだな」
「ええ…。それにしては大人気ないですが」

あれがキャバッローネ家の当主かと思うと情けないとロマーリオは首を横に振り、10年間ちっとも成長していない独占欲の強さに草壁も隣で息を吐いている。小動物相手にですら全力で立ち向かっていくなど、9代目が健在ならば呆れ果てるだろう。

「――だけど」

そんな二人の傍らで、雲雀は冷たい笑みを浮かべながら、言った。

「あのひともロールも似ているよね」
「ボスとロールか?おいおい、勘弁してくれよ」

楽しそうに口元を緩ませる雲雀とは対照的に、ロマーリオが苦笑いを浮かべる。

「独占欲が強くて見ていて可愛い。――違う?」

雲雀が眺めながら妖艶な笑みを浮かべた頃。最後のディーノの悲鳴が室内に短く響き渡った。

→リク内容:ポッキーゲームをせがむロール+それに焼き餅なボスの話

2012.06.19



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