小さないたずら2(みん様/DH+動物)


雲雀が10年バズーカーに巻き込まれ5歳の身体と入れ替わり、キャバッローネ邸に居座るようになってからもう1週間が過ぎようとしていた。

見た目は可愛くて幼い幼児――だが、中味はいつもの凶暴な少年。
甘く見て軽く手を出したり可愛がろうものなら、容赦なく拳が飛んでくる。そしてその後は決まって不機嫌になるものだから、手に負えない。
それはディーノだけでなくロマーリオ始め、大半の部下がそうだった。

そして今日もまた雲雀の着替えを手伝おうとしたディーノが返り討ちに遭い、部屋を追い出されていた。

「ててっ、あのじゃじゃ馬…」
「ボース、また殴られたのか」
「笑い事じゃねぇ。5歳のくせにいてえ」

確かにディーノの頬は赤く腫れている。
普段から鍛えられているディーノに傷を負わせるほどの力をもう持つとは、末恐ろしいガキだとロマーリオは苦笑いを浮かべた。

「ボンゴレに関わってなければ、キャバッローネにスカウトしたんだがな」
「ロマが言うと、冗談に聞こえねぇ」
「俺は本気だぜ」

たった5歳で、こんなにもキャバッローネ10代目の手を焼かせるのは世界中を探しても、雲雀くらいだろう。中身が15歳ということを差し引いても、ディーノと対等に渡り合えるほど成長するのにそう時間はかからないのは明白だった。
腹心でもありキャバッローネの実権を裏で握っているといっても過言ではないロマーリオは本気で惜しいな、と肩を落としたのだった。





一方、部屋の中央では小さな体で懸命にトンファーを振りかざそうとしていた雲雀が、疲れ果てて蹲っていた。

「うう…」

如何せん、5歳の腕力は知れている。自分の武器であるトンファーといえど、操るどころか持ち上げる事さえままならなかった。何度も試しても結果は同じで、そうなると次第にストレスがたまり、室内のクッションにばふばふトンファーを打ち付けるようになった。

(むかつく…!)

「クピ…」
「ヒバリ、ヒバリ」
「きみたちのいうことでも、きかないよ」

小動物が心配そうに伺っても、雲雀は無視をした。そんな雲雀にロールは怯え、ヒバードは関わらぬよう離れた場所で毛づくろいを始める。

「ううううー」

思い通りにいかない苛立ちはやがてエスカレートし、調度品を破壊したりカーテンを切り裂くまで派手になる。挙句の果てには、料理を持ってきた部下にも苛立ち、軒並み咬み殺してしまった。
さすがにここまで来ると黙っていないのが、ディーノだ。

今までは多少の事にも目を瞑っていたが、仲間に危害を加えたとなると話は別。いきなり部屋に入ったかと思うと、逃げ回る雲雀を必死に追う。

「こら、待て!」
「ヤダ」

ディーノの手を逃れながらも手当たり次第にクッションや花瓶を投げ、それらは悉く壁に激突し、粉々になった。

「お前、それ高いんだぞ!」
「しらないよ」
「ったく、この!」

ディーノは最後の手段とばかりに鞭を取り出した。もちろん相手が雲雀とはいえ、5歳の子供なのだから、ある程度は手加減している。
だが、部下のいない密室空間ではそんな器用な真似ができるはずもなく、ベッドヘッドに絡みついた鞭の先が運悪く雲雀の頬に命中してしまった。

「っ!」
「!恭弥っ」

こうなると慌てたのは、ディーノだ。鞭をそのままに蹲る雲雀の元へ駆け寄り顔を覗き込んだところ――その隙を狙われ、盛大に頭突きを食らう。

「って!…っ〜〜!」
「ゆだんするからだよ、へなちょこ」

ディーノの脇をすり抜ける雲雀は、またしても部屋中を動き回る。ちょこまかと走り回る雲雀はバカにしているようだった。

「…この、悪がき…」

こうなると、黙っていられない。ディーノは、まだ傷む顔をさすりながらじわりじわりと容赦なく雲雀を壁際に追い詰めた。

「ようやく追い詰めたぜ。悪い子にはおしおきだよな?」
「…しらない」
「おっと、逃げるなよ」

逃げようとしても、所詮5歳のウエイトと22歳は比べようにならない。
ディーノは逆にゆっくり追い詰めるように楽しんでいると、いきなり二人の間に割って入ったものに流れが止まった。

「クピ!」
「クアッ」
「ヒバリ、ヒバリ!」

亀のエンツィオと、はりねずみのロール。それに、上空ではヒバードがパタパタとディーノの視界を奪うように飛び回る。それだけなら、いつもの事だ。小動物たちは雲雀によく懐き、そして雲雀もまた可愛がっているから。
だが、今回はそれだけではなく――

「ヒヒーン」

雲雀の身体を隠すようにして主の前に立ち尽くすのは、天馬のスクーデリア。

「スクーデリア、退け」

だが、スクーデリアは真っ直ぐにディーノを見つめ、諭すようにひと鳴きする。
主にたてつく匣兵器など聞いたことがない。

「スクーデリア!」
「……」
「…くそ、わかったよ。もうしねぇよ」

ディーノが鞭を仕舞うと、雲雀はまだ疑わしく警戒心を解かない。

「ほんとに?」
「ああ、悪かった。さすがに大人気ない」
「こどもあつかいしないで」
「してねーよ。つーか、少なくとも今は子供だろ!ほら、鞭は預けるから」

ディーノが武器の鞭を雲雀の前に放り投げる。
それに安心したのか、スクーデリアが天を仰ぎ、もう一度鳴いた。続いて小動物も逆にディーノの元へ駆け寄る。

「クア」
「っとに、厳禁なやつらだな」

頭にヒバード、手にはエンツィオ、肩にロールを載せてディーノは雲雀の元に屈んだ。

「悪かったな。痛かったか?」

不意とはいえ当ってしまった雲雀の頬は赤くなっている。別に、とそっぽを向く雲雀だったがスクーデリアに舐められてくすぐったそうに肩を竦めた。

「スクーデリア、くすぐったい」
「ヒヒーン」

そしてスクーデリアはディーノに向き直ると、ばつが悪いように目を細める。
主にたてついたことを詫びるように、その場に身体を折りたたむ。

「…今回だけだぞ」

ディーノが苦笑いを浮かべスクーデリアを優しく撫でてやると、嬉しそうに身体を摺り寄せてきた。
そんな仕草が羨ましいのか、エンツィオやロール、ヒバードも同じようにディーノに構って、とつついたりよじ登ったりしてくる。

「わわっ、やめろっての!」
「クア!」
「キュウウ!」

一見微笑ましく思える光景に、雲雀は小さく笑った。

そんな、いつもとは違う様子のキャバッローネ家。雲雀が元に戻るのは、それから数日後の事だった。


→リク内容:「ちいさないたずら」の続編をanimal絡みで

2012.05.17



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