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ここに引き取られてからすぐ、ディーノと黒服のひとが「誕生日祝い」をしてくれた。
ふわふわのお布団と立派な寝床をくれたのはディーノ。
質の良いピカピカに磨かれたトンファーをくれたのは、ロマーリオ。
二人から愛情のこもった「おめでとう」をもらって、胸がポカポカした。

「ヒバード、僕病気かな。胸が熱い。ぽかぽかする」
「ポカポカ?アッタカイ」
「うん、暖かいよ」
「ヒバリ、シアワアセ、ウレシイ」
ヒバードが嬉しそうに羽を羽ばたかせる。
「嬉しい…?」
「ヒバリ、ウレシイ」
「…嬉しい、」
これが、嬉しい?
じ、と考えてみると確かにそれは嫌なことではないと気付く。
「じゃあ」
あの二人も、何かあげたら喜ぶんだろうか。別に何かをしたいわけではないが、自分だけこの暖かさを知っているなんて不公平だ。
だから、二人の「たんじょうび」には何かしたい。
「ヒバードも何かあげる?」
「ヒバード、スル」
「じゃあ、一緒にしよう」
「ピ!」

ヒバードも嬉しそうに囀るのを見て、雲雀もにんまりと笑った。
そして、そう心に決めてから、わくわく「その日」が来るのを心待ちにしていた。



+君を飾る花を咲かそう+



「いよ、いよ…だね」
「ピ!」
「キュ!」

雪解けがそこここに見られ、春の訪れが感じられ始めた2月の始め。
ディーノとロマーリオが仕事に出かけた隙を狙い、雲雀はヒバードとロールと作戦会議を開いた。もちろん議題は、明日に迫っているディーノの

誕生日プレゼントだ。
それとなく世話係りであるロマーリオから誕生日を聞きだしたのは、つい先日のこと。それからどうしようかディーノの様子を窺いながら、とう

とう前日を迎えた。
何をあげるかは決まっているが、問題はそれをいつどうやって取ってくるかだ。
なにせ、雲雀は一人でこの屋敷から出歩いたことがない。ディーノが外は危ないと出ることを許さなかったからだが、そうせずともキャバッロー

ネの敷地は広く、一人になれるところはたくさんあったから雲雀も外に出ようとは思わなかった。
だが実際に外に行こうと思えば正門には常に黒服の男が佇んでおり、雲雀の外出を許さない。恐らくディーノの命令なのだろうが、気付いた途端

に窮屈に感じ始めた。
誕生日がどうのこうのというよりも、雲雀は拘束されるのが一番嫌いなのだ。
しかし、ディーノに直接交渉している時間はないし、かといって実力行使に出るにしても、何度か脱出を試みた雲雀の周囲は厳重になっている。
「どうしよう…」
「ピ…」
「キュウ」
しばらく悩んだが、どうしても良い案が浮かばず諦めかけた頃、少し遠くの部屋で何かカタン、と物音がしたような気がした。





ディーノが仕事を追え、屋敷に戻ってくるとまず感じたのは、些細な違和感だった。どこがどう…と明確には分からないのだが、嫌な感覚が喉を

鳴らす。
次々に声をかけてくる部下達に挨拶を交わしながら、異変の正体に気付いた。
いつもなら奥の部屋から雲雀が「戦って」と姿を現すのに、その気配が全くない。
「どうした、ボス」
ロマーリオも不思議に思ったのだろう。背後から声をかけてくる。
「いや、恭弥のやつは?」
「寝てるんじゃないのか」
寝室を覗くと、昼寝の定位置になっているソファにも寝床にもそれらしい人影はない。
というか、存在が全く感じられない。雲雀だけではない。ヒバードやロールもだ。
慌てて寝室やキッチンを探し回ったが一人と二匹の姿はどこにも見られず、屋敷にいた連中も口を揃えて「知らない」と返す。ここから出ること

など不可能なはずだ。ディーノがそうさせないよう仕向けたはずだし、実際にそんな素振りもない。
一体どうしてしまったのだろう。
キャバッローネ家のセキュリティは万全で、無理やり脱出しようものなら屋敷中にサイレンが鳴り響き、ディーノの元へも届くようになっている

。だから、雲雀が勝手に出て行ったことは考えにくい。
あれから、数時間。
うろうろと部屋を徘徊するディーノに見かねたのか、騒ぎを聞きつけてやってきたリボーンが一喝する。
「ディーノ、少しは落ち着いたらどうだ」
「だってさ、こうしてる間にも恭弥がどんな目に遭っているかと思うと…やっぱ俺も」
踵を返す愛弟子を、リボーンが殴りつける。
「おめぇが行ってどうする。今はAファミリーとの交渉の最中だろうが。良い的になるだけだぞ」
「そうは行っても、じっと待ってるだけなんてできるわけねぇだろ」
「バカタレ。もっと頭を使え」
再度頭を殴られ、ディーノは口を尖らす。
「頭っつっても、思い当たるところは探したし、そもそもどうやって出て行ったのか…」
「さっきトイレに行ったら、窓の桟に小さな毛が待っていた。見覚えねぇか」
「毛…?」
差し出されたのは、黄色い柔らかな毛が数本。見覚えのあるそれは、ディーノが雲雀のBDにプレゼントした小鳥のものと酷似している。
「トイレの窓も締め切っているのか?」
「いいや、あそこは喚起が悪いからいつも開けっ放しにしている」
「大の大人は無理だが、ヒバリくらいなら難なく通れる広さじゃねぇのか」
確かに多少広めに設計しているトイレは窓も大きく、子供なら問題のない大きさだ。
「幸いここは二階だし、すぐ近くに大木もある。外へ出るのにはいくらヒバリでも苦じゃないだろう」
確かにその通りだ。ヒバリほどの運動神経なら木を降りるくらい、難なくこなすに違いない。
問題は、なんのために…ということだ。
「いやになったとか…じゃないよな…?」
ありったけの愛情をこめて今まで育ててきた。雲雀も少なからずディーノに愛情を寄せてくれていると思っていた。だが、独りよがりだったのだ

ろうか。
本当は黙って出て行きたいくらい、ここが窮屈だったのだろうか。
もう辺りはすっかり薄暗い。この時間になっても帰ってこないとなると、その気がないか迷っているかのどちらかだ。
「バカタレ。そんなことを考える前に探しに行け」
檄を飛ばされて、ディーノは逡巡した後、頷いた。
「あ、ああ」
ヒバリの気持ちは確かに自分達には分からないが、リボーンの言うとおり探すのが先決だ。まだまだ寒いこの季節。きっと凍えているに違いない


雲雀のジャケットを手に、部屋を出ようとしたその時。
「跳ね馬あああああああ!」
「うわっ!」
突然入ってきたのは、旧友のスクアーロだった。しかも、腕には鞭で縛られて口を尖らせている雲雀を抱えている。
「スクアーロ?と、恭弥!?」
「って!噛むな!」
がぶりとスクアーロに噛みついている雲雀を目の前に、ディーノは目を丸くしたまま二人を交互に見やったのだった。







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