episode05 「キュウ」 「こら、まだ飲むには熱いぞ」 「クピ?」 「動くな、ロール3号!!!」 「ギュピッ!」 草壁が生まれたばかりの幼いロールをあやしている間に寝床から逃げようとした大きなロールが大声にびく、っと身体を震わせる。そして大人しく寝ていたはりねずみがいっせいに鳴き始め、静寂を保っていたはずの室内は、途端に大合唱に包まれた。 「何の騒ぎ?」 「あ、恭さん、すみません」 明け方仕事から戻ったばかりの主は、寝ぼけ眼のまま室内を見渡す。 一眠りしていたのか、身に着けている着物はきちんと身なりを整えている雲雀にしては珍しく、崩れてしまっている。 「恭さん、風邪をひきます。上着を羽織ってください」 「いいよ」 「いけません」 強引に羽織らせ、その間に着物もしっかりと調えてやると、隣の部屋でもてなしていたはずのロマーリオとディーノが顔を出す。 「恭弥、起きたのか」 「また来たの、暇人だね」 「そういうなよ。こうして顔を合わせるのは1ヶ月ぶりなんだぜ。多少無茶もするさ」 「エンツィオは?」 「隣でヒバードと遊んでる。つか、俺よりエンツィオかよ」 「だって、エンツィオはうるさくないし」 そんな痴話げんかにもにたやり取りを背に、ロマーリオは肩で笑いを噛み締めている。 「ロマーリオ、いつものことですよ」 「そうじゃねぇよ。お前だ」 「え?」 「まるで動物園の飼育係りだなと思ってな」 指を指されて、草壁はああ、と笑みをこぼした。 右手には哺乳瓶。左手で小さなはりねずみを抱えスポイトでミルクを与えている姿はそれ以外のなにものでもない。 「ロールのためですよ。寂しがりやですから、恭さんが可哀想だって」 「それにしても、20匹はいるんじゃねーのか」 「ディーノさんが引き取ってくれるそうです」 「聞いてねぇぞ」 今度は草壁が笑う番だった。 互いの主の無茶には慣れっこの二人である。 背負った大きな運命を引き換えに小さな幸せを得られるのなら、どんなことでも手助けをしてやりたい。その気持ちは互いに抱えていた。 「俺も手伝うか」 「じゃあロール1号に、そこの離乳食を」 「1号?」 「2号は反対側のミルクです。好き嫌いが激しくて」 「これか?」 「クピ!」 「違います、それは3号です」 「…わかるわけねーだろ」 そうして昼寝から起きたはりねずみたちがお腹が空いた、と次から次へと寄ってくる。 その光景にげんなりしながらも、ロマーリオはこうなったら徹底的に付き合ってやるかと腕まくりをした。 ディーノにとって雲雀が教え子であるように、ロマーリオにとって草壁も、可愛い教え子だった。何かをしてやりたいと思う気持ちは同じで、それが自分と近ければ近いほど強くなる。 あれから、10年。 草壁がイタリアに渡る直前、ひどく嬉しそうな顔をして尋ねてきたことは今でも覚えている。 ロマーリオの元で修行を積み、ようやく雲雀にかけられた言葉。 『君も来る?』 それだけで、全てが救われる。 主への想いが、改めて大きく芽吹く。 かつてロマーリオがディーノに全てを託されたように。 草壁と雲雀もまた、二人でしか築けない絆を確実に育んでいることに、小さな喜びを感じた。 fin 2012.11.15 遅くなりましたが草壁さんhappybirtday! 誕生日関係ないですが二人の誰にも侵食されない関係が大好きです。 |