episode04 中学も残すところあと少しという頃。ディーノの傍に常に付き従う男・ロマーリオが、ぽつり、と零した。 「そろそろか。寂しくなるな」 「…え?」 「イタリアへ行くんだろう?恭弥」 「ああ…」 継承式を終えた今、雲雀が家を出てボンゴレの母体となるイタリアへ赴くのは周知の事実だった。もちろん草壁もそのためにずっと雲雀の渡伊の準備をしており慌しい毎日を送っている。 だが、こうして、第三者から直接言葉にされると、その度に言いようのない不安がやってくる。 「おい、何呆けてんだ」 「いや、別に」 「草壁も行くんだろ」 「俺が?イタリアへ?」 「いかねぇのか」 ロマーリオが意外そうに口元を歪める。 イタリア。 そう簡単に身体を運べる場所ではない。もちろんいざという時のため英語や中国語、イタリア語はマスターしているが、あくまでも自分は雲雀家に仕える身分だ。おいそれと将来を一人で決めてよいわけでもないし、またそのつもりもなかった。 何よりも雲雀が自分を必要としているかどうか。 「意外だな。お前さんなら最後まで恭弥の傍を離れないと思ったんだが」 「そりゃ、俺だって…」 「俺だって?」 「……、」 傍にいることが出来るのなら、そうしている。 だが、常に付きまとうは厄介な柵。こうして親睦の深いロマーリオにさえ本音を言えないほどの。 そんな草壁を見て、ロマーリオが苦笑いを浮かべながら空を見上げた。 「そういえば、恭弥が言ってたな。『群れは弱いものの集まりだ。だけど、ボスを務める跳ね馬や草食動物は僕より強い。その理由が知りたい。だから、時代の流れに逆らわずにボンゴレに属することにした』ってな。俺はその時いつか恭弥が牙をむくんじゃねーかと心配になったが、ボスに笑い飛ばされた」 「ディーノさんに?」 「ああ。草壁ならその意味、わかるんじゃねーのか」 「…恭さんはああ見えて慈悲深く、信念を曲げないお方だ。一度決めたら最後まで貫き通す。幼い頃からそれは変わらない。現にボンゴレ最強の守護者と名実共に名高い恭さんが、今の今まで沢田氏やディーノさんに対して、その身を脅かす理由で剣を向けたことは一度もない」 何度か違う立場に立ち、刃を交えたことはある。だが、それはただ強者と戦いだけ。まるで子供のような純粋で無垢な好奇心からくるものばかり。それ以外の感情は、何もなかった。 「恭さんは決して人を裏切らない」 「なら、心配いらねぇ。恭弥がどうしたいか、なんて関係ない。草壁がこれからどうしたいかだ。俺は先代から仕えているが、跡取りだからボスに仕えてるわけじゃねぇぞ。10代目がボスだからこそ、命をかけて守って仕えると誓った。他の誰でもない、自分だけのボスのためにな」 「自分だけの…」 「ああ。殴られても蹴られても指先一つ動くなら、絶対に傍を離れない。その覚悟があるのなら、恭弥についていけばよい。出来ないなら、ここで退くべきだがな。まあ、時間はまだあるからゆっくり考えて――」 「もう決まってる」 言葉を遮った草壁を、ロマーリオが満足げに見つめ返した。 「さんきゅ、おっさ…いいや、ロマーリオ。あの時のことを思い出した」 「あの時?」 「ああ」 初めて庭で会った、幼い頃。 何があっても、どれだけの時間を重ねても一生お仕えしたいと即座に思った。 そう、運命のような出会い。 不安だったのは、自分の力だ。雲雀に相応しいだけの力をまだ得ていない。このままでは必ず足手まといになる。 だから。 「俺もイタリアに行く。だから、主を守るために必要なことを全て、教えてくれないか」 あの人のためなら、なんでもする。 雲雀家も草壁家も関係ない。勘当されても構わない。 慕い付き従いたいのは、雲雀恭弥そのお方だけ。 そう固く決意する草壁に、ロマーリオは今までにないほどの笑みを浮かべた。 2012.11.15 |