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「恭弥!」

ディーノが校庭裏でようやく雲雀を見つけると、辺りには既に誰の姿もなかった。

「跳ね馬」
「良かった、無事か?」

無事を確認するように抱きしめると、雲雀は訝しげな眼差しを浮かべる。

「は?何の話…ていうか、苦しい」
「さっきまで10年後の俺がいなかったか?」
「いるわけないじゃない」

冷たく返されて、ディーノはようやく雲雀の嘘に気付いた。

「あいつ…ひっかけたな」
「ちょっと、なんなの、一体」
「ああ、悪い。それよりお前こんなところでなにやってたんだ?」

手にしているのはトンファー。大人の雲雀は機嫌を損ねていると言っていたが、それに反して目の前の雲雀はいつもにも増して機嫌が良いように思える。

「なにって、苛々してたから咬み殺してた」
「…それだけ?」
「他に何があるの」
「だよな…」

ストレス発散を暴れることで解消したのか、とディーノは雲雀に咬み殺された生徒にほんの少し同情した。
ディーノが宥めるよりは効果的――なのは、情けないところではあるが。
不意に、雲雀の視線がディーノの右腕に落とされる。

「それ、なに」
「ああ、今日で1年目だからな…日本の花屋で包んでもらった花束だ。お前にやる」
「いらない」

即座に跳ね除ける雲雀に、ディーノは苦笑いを浮かべる。

「そういうと思った。けど、今日が何の日かは覚えてるんだな」
「…!」

しまった、と雲雀は息を呑む。そんな拙さが残る雲雀が可愛くて、ディーノは目元を細めた。

「しつこくカレンダーに書いた甲斐があったな」
「うるさい。それだけならもう帰る」
「まてまてまてって!なあ、ちょっとは想ってくれた?」
「……」
「あのときのこと、思い出したりした?」
「…ヒバードとロールが」
「ん?」
「あなたに感化されて困ってる。もうあなたは出入り禁止だよ」

ツン、と口を尖らせる雲雀に、ディーノは応接室の惨状を頭に浮かべる。確かに元の原因はディーノがつけたカレンダーだ。だからといって、それはあんまりすぎる。

「おいおい、ここまで来るのに何時間かかると…」
「どうしてもっていうなら、撤回しても良い。その代わり、僕の命令には絶対だよ」
「命令かよ。はいはい、今日だけは何でも聞いてやる。お姫様」

ぎろりと睨まれて、ディーノは慌てて口を抑えた。

「手加減なしで戦って。夜はハンバーグが食べたい。それから…」
「それから?」
「それはもらう」
「それ?」

雲雀の目線を追って、ディーノは手にしていたそれに気付いた。
すっかりくたびれてしまった、花束。

「勿体無いからだよ」
「…Grazie,恭弥」
「知らないよ。ヒバードの好物だから、えさにする」
「それでもいいさ」

軽く引き寄せて、何度も愛しさを感じたこめかみにキスを送る。

「ちょ、命令…」
「だから、恭弥の命令だろ?目が蕩けてもっとして、って言ってる」
「そんなわけ…」

抗議の上がる声を、今度は優しく包み込むように奪った。最初は拒んでいた目元も、次第に甘みを帯びてゆく。そんな姿がまた、愛しい。

今日だけは思いっきり甘やかし、明日からまたどうやってこのじゃじゃ馬を手懐けようかと考えるのだ。それもまた楽しくて、愛おしくてたまらない。

10年後の恋人が自分を信頼しているように、その絆を少しずつ育めれば、とても力強く暖かい時間になるはず。

そっと頬を撫でる風に心地よさを感じて、ディーノは改めて幸せを噛み締めた。

FIN

おまけ

「ところで、招待状ってどうやって届いたんだ?」
「あの子達がだしたやつかい?」
「ああ。宛名がめちゃくちゃなのに、ちゃんと俺とロマのところに来てたからな」
「風紀委員には特別の配達網があるからね。それを使ったんじゃないかな」
「どんな風紀委員だよ…」

2012.10.20

遅くなりましたが、出会いの日おめでとー!



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