2 「ボス」 10月13日。 ロマーリオは今しがた届いたばかりのエアメールを受け取ると、首を傾げながらディーノに声をかけた。 「ロマ、準備は済んだのか?いそがねぇとフライトに間に合わなくなるぜ。飛行機に乗り遅れたらまた恭弥に嫌味言われちまう」」 「その恭弥から手紙が来てたぜ」 「手紙!?」 雲雀の名が出た途端、ディーノはロマーリオから手紙をひったくった。 メールをしても手紙を出しても返事はない雲雀からとなると、まさに天変地異。 うきうきしながら手紙を見たディーノだったが、その宛名に書かれていたのは―― 「●▼★☆○〜…」 およそ文字とは思えない、記号の羅列。差出人の欄にはきっちりと並盛中学風紀委員の印鑑が押されているから、雲雀からなのは間違いない。 不思議に思いながらも開封すれば、中から出てきたのはもう枯れてしまっている緑の葉っぱが数枚。 そして、動物らしき足跡がよっつ。 「なんだ、これ?」 「察するに、恭弥の所にいるアニマルがしでかしたんじゃねーのか」 「ヒバードとロールか?いや、ロールは分かるけど…」 あのしっかりもののヒバードが、こんなことをするなんて考えられない。 「ちなみに、俺にも来てたぜ」 「ロマにも?」 「ああ。中身はやはり雑草だったがな」 「ただのいたずらにしては、こんなもんどうやって届けたんだ?」 宛名は無茶苦茶、切手はもちろん貼ってないし、はっきりしているのは差出人くらだいが、それも風紀委員のゴム印のみだ。こんなもので届くとは到底思えない。 「どっちにしても日本に行って聞けばいーんじゃねーのか?」 「ああ。やべ、時間!ロマ、行くぞ」 「了解、ボス」 そうして手紙をしまいこみ、二人は慌てて車に乗り込んだ。 * 「…これはどういうことだい?」 応接室でいつになく声を震わせながら仁王立ちしているのは、部屋の主の雲雀。 そしてその前では小動物二匹がぶるぶると震えていた。正確に言えば震えているのはハリネズミのロールだけだったが、デスクの上に座らされて、まるで先生に怒られている生徒の図である。 「聞いてるの?」 「キュウウウ…」 ついには声をあげて泣き出してしまうロールに、雲雀は肩で大きな息を吐いた。 事の起こりは今から数時間前。 見回りを済ませ、応接室に戻った雲雀の目に飛び込んできたのは、泥棒でも入ったかのような有様だった。 デスクの上に積んでいた資料は全て床に散乱し、こぼれたインクが絨毯や新調したばかりのソファーにまで派手に飛び散っていた。そして部屋の至る所には鳥とねずみのインクまみれの足跡が模様を成しており、極めつけに重要な印鑑や書類を入れていた引き出しが無残に齧られて使い物にならないほど。もちろん中身は見るに耐えない。 一瞥するだけで、誰の仕業なのか直ぐに分かった。 「ロール、仮にも僕の匣アニマルならそれくらいで泣くな」 「キュ!」 「何があったのかくらい言えるよね?」 「キュウ…」 それでもロールは初めて見る雲雀の怒りを受け止めきれず、ペンたての後ろに隠れてしまった。 「ヒバリ、ヒバリ」 そんな窮地を救ったのは、今まで大人しくしていた小鳥だ。 さすがにヒバードは動揺することなく、いつもと変わりがない。彼なら経緯を話せるだろうと、ターゲットを変える事にした。 「君達、何をしたの?」 「アシタ、アシタ」 「明日?10月14日…?」 何があっただろうかとカレンダーを見やれば、派手につけられた赤い印に気付く。 ディーノが毎年つけるそれは、今年も漏れなく強調されていた。 「恭弥と初めて出会った日!」なんて浮かれている様子に大して興味なくやり過ごしていたのだが――。 「もしかして、跳ね馬に脅されたの?」 「ロール、ウマとヒバリスキ。アシタ、ダイジ」 だから、とヒバードは引き出しに仕舞っていた招待状をくわえて来ると、 「キネンビ、オイワイスル」 「…なるほどね」 雲雀は頭を抱えた。 つまりデスクに置いていた結婚式の招待状を見て、自分達も記念日に何かしようと、作ってみた――ということか。 雲雀が喜ぶと思ったのだろう。ありがたいとは思わないが、愛情豊かなロールやロールを可愛がるヒバードからしてみれば、全く不思議ではない。 だが。 「いいかい、跳ね馬と出会った日か何か知らないけど、僕にはどうでも良い日だよ。むしろ体育祭後で浮かれている生徒は多いし、はっきりいって忙しい。わかるかい」 「クピ」 「だから、君達も大人しくしてること。跳ね馬が来ても相手をしないこと。良いね?」 「キュ?」 雲雀の言葉が通じているのか通じていないのか、ロールは首を傾げた。 「キュウウ(でも雲雀さん、去年は嬉しそうだったよ)」 「それは、それ。今年は違うんだよ」 「クピ?(ロール、分からない…)」 「だからね…」 そんなやり取りをみて、ヒバードが一言。 「ヒバリ、ツンデレ、ツンデレ」 「クピ?」 「ツンデレ、ヒバリ!」 「クピイ!」 「…ちょっと、変なことをロールに教えないでくれるかい…」 一向に話が進まない状況に、さらに頭を抱えたのだった。 2012.10.18 |