いいこだからこっちにおいで


出会った頃から、ヒバードは不思議な鳥だった。いつもマイペースで、驚くくらいの賢さで空気を読み取り、雲雀が忙しかったり気が荒いときは決して邪魔をしようと思わない。かといって興味がないわけではなく、雲雀の行くところには必ず付いて回る。
そんな黄色い小鳥の存在を、雲雀は一度も鬱陶しいと感じたことはなかった。

だが、そんなヒバードが最近おかしい。雲雀が指を差し出しても近寄ろうとせず、毎日歌っていた校歌も囀らなくなった。

「君、どうしたの」

「ピヨッ」

今日も話しかけると返事はしてくれるが、直ぐに雲雀から離れ、毛づくろいを始める。
一瞬何かしただろうか、と思うがいくら考えても思い当たることは何もない。

「今日もご機嫌斜めですね」

雲雀同様、ヒバードの機嫌の悪さを気にしていた草壁が心配そうに見やった。

「おなかが空いているわけでもなさそうですし、何か病気でしょうか」

草壁の言うとおり、何かの病気かもしれない。面倒だが獣医に連れて行ったほうがよいかもしれない。

「おいで。いい子だから」

雲雀が指を差し出すと、ヒバードはゆっくりと寄ってきた。それでも勢いがなく、静かな様は異常に見える。

「ほんとに、君どうしたの?」

と、その時。
応接室の扉がガラ、っと開くといつものように賑やかな顔がやってきた。

「恭弥!いるか?」

「うるさい」

入るなり飛んでくる雲雀の冷たい眼差しにも気にすることなく、ディーノは怪訝そうに雲雀とヒバードを見比べすぐに異変に気付く。

「ヒバード、どうしたんだ?元気ねーな」

「最近、調子が悪いんだ」

「調子?」

言いながらディーノが無造作にふわふわの毛を撫でてやると、ヒバードが嫌がるように身を捩った。

「あんまり触ると機嫌が悪くなるんだ」

いつもは気持ちが良さそうにするそれに抵抗を見せるヒバードを見て、ディーノは苦笑いを浮かべる。

「恭弥。これって、換羽じゃねえ?」

「換羽?」

「ああ。俺も昔鳥を飼ってたから分かるんだ。な、ロマーリオ?」

ディーノは背後に佇んでいたロマーリオに声をかける。

「そうだな。最近毛が良く抜けてねーか」

「…いつもがどれくらいか知らないけど、確かに抜け毛は多いよ。それってなんなの?病気?」

「いいや。古い毛と新しい毛が入れ替ることだ。大体換羽ってのは多くのエネルギーを使うから、この時期には歌ったり、争ったりせず、ひっそりと生活するんだ」

「そうなんだ…」

「ピヨ?」

ヒバードも首を傾げて、雲雀を見上げる。

「良かったね、病気じゃないんだって」

「ピイ」

すると、ヒバードは久しぶりに嬉しそうな鳴き声をあげた。


「笑った」

びっくりしたような顔をする雲雀に、ロマーリオは苦笑いを浮かべる。

「ああ。それと…この時期は敏感だから、恭弥の心配そうな顔が伝染したのかもな」

「僕の?」

「そうだ。特にヒバードは賢い鳥だから、余計にな」

「ふーん」

雲雀は再びヒバードに向き直ると、今度はじーっとにらめっこをしだした。
ロマーリオの言うとおり、雲雀が笑えばヒバードも笑い出す。
そんなやりとりを見ながら、ロマーリオはまるでひな鳥を見ているような気分になったのだった。


2012.4.7


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