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雲雀とロマーリオが向かった先は、普段は滅多に人が寄り付かない倉庫街だった。
見るからに人気がなく、廃墟同然の倉庫が立ち並んでいる。
ディーノからはホテルの1室を借り切って、ロマーリオの誕生日パーティを派手に催すから連れてきてくれ――そんな命を受けた雲雀だったが、とてもそんな雰囲気ではない。

「…ここか?」
「……違うの」

さすがに雲雀も違和感を覚え、ディーノから渡されたメモを見やると、「あ」と言葉を呑んだ。

「ここって1丁目?4丁目じゃないの」
「全然違うな。なに、ここからそう遠く離れてねぇからいったん車に戻ろう」

そう言いながら踵を返した時だった。
背後から迫る殺気に気づいたのはほぼ同時で、少し遅れてやってきた銃声よりも早く車の陰に身を潜める。

「!!…っ、なんだぁ?」
「キャバッローネじゃないね」
「当たり前だろ、ボンゴレでもねーな」

拳銃を片手に襲撃してくる男が数名。それはどれも見たことがない連中だった。ロマーリオは雲雀の手を引くと、

「とにかくこっちだ」
「あれくらい倒せる」
「マフィアをなめんじゃねぇ」

普段は温厚なロマーリオが声を荒げる。それに圧倒されたわけではないが、大人しく手を引かれるまま手近にあった倉庫に駆け込んだ。





――どれくらい時間が経っただろうか。

ロマーリオは息を潜め、全神経を集中させていた。
まさかこんな事になるとは思わなかったから、手元にあるのは小型のベレッタ1機と装弾されている8発と替えの銃弾。それと手榴弾がひとつだけ。雲雀に至っては愛用のトンファーのみだ。本人いわく銃弾さえ弾き飛ばすらしいが、まさか中学生をそんな危険な目に遭わせるにもいかない。
目を凝らして見てみると、そのうちの一人に見覚えがあった。
最近のし上がってきたばかりの新参者にも関わらず、先日キャバッローネを裏切り、ディーノに制裁を加えられた壊滅寸前のファミリーの残党。
これくらいなら日常茶飯事であるし多少無茶も出来るが、ボスの大事な預かりものが一緒なら、強硬手段をとるわけにもいかない。雲雀の腕は信用しているが、万が一ということもある。
先ほどディーノにSOS信号は飛ばしたし、時間稼ぎさえすれば大丈夫だろう。
弾丸を替えながら、ロマーリオはいったん落ち着いた静寂に息を吐いた。

「ねぇ」
「ん?」
「今日が誕生日なんでしょ」
「ああ。よく知ってるな」

手榴弾を口にくわえピンを外しながら言う大きな背中を前に、雲雀は胸元から小箱を取り出した。

「これ、あげるよ」
「…?なんだ、これは」
「プレゼントだよ」
「…は?」

敵の猛追を交わしながら答えるロマーリオに、雲雀は笑って見せた。

「あの人に聞いたよ。仕方ないから僕からもあげる」
「そりゃ、すまねぇな」
「いいよ。君にはいつも世話になってるし」
「した覚えはあまりないがな」

それでか、と今日の雲雀の行動に納得した。こんな所に連れ出したのもディーノの差し金だろう。
4丁目にはディーノがよく使うホテルがあり、日本で祝い事をするときはいつも貸切っている。ファミリーや民を大事にするディーノは、感謝の気持ちを忘れないようにと事あるごとに祝いの場を設けていた。部下としてはこれ以上ありがたいことはない。
だが、群れることを嫌う目の前の少年までもが一役買っていたとは、到底思わなかったが。

「恭弥も悪かったな。ボスが無茶を言ったんだろう」
「別に。それよりも今日は覚悟するんだね。一晩中飲み明かすって言ってたし、老体にはきついんじゃないの」
「おいおい、これでもまだ若いつもりなんだがな」
「あ、前」

雲雀の視線の先が残党を捉える。ほぼ同時にロマーリオの投げた手榴弾が遠くで派手な音を立てた。
次第に静寂が宿り、敵を一掃したと判断する。

「恭弥、大丈夫か」
「誰に言ってるの」

腕をひくと、雲雀の顔がほんの少し苦痛に歪む。軽く掠ったのか肩からは血が流れていて、ロマーリオは自分のシャツを引き裂き止血してやった。

「顔じゃなくて良かったな。お前さんに怪我でもさせたら、ボスに顔向けできねーところだ」
「関係ないよ」
「ヒバリ、ヒバリ」

遠くに避難していたらしいヒバードが寄ってきた。その小さな口には、黄色い花をくわえている。

「なに?…ああ、そう。――はい」
「え?」

受け取った花を差し出されて、ロマーリオが惑う。

「この子から。普段、世話になってるからって」
「…世話ねえ。まあ、ありがたく頂いておく」
「ピイ!」

そうこうしていると、次々と黒塗りの車が横付け、ディーノを筆頭に黒服のスーツに身を纏った男たちがやってきた。

「ロマ!恭弥!」
「ボス」
「無事か?」
「ああ。なんとかな」

ディーノはロマーリオと雲雀を交互に見やり、ほっと安堵の表情を浮かべた。
直ぐに雲雀の怪我を見て、自分のことのように慌てふためいたところで雲雀に咬み殺されるのはいつものことだったが。
そしてその光景に仲間が嬉しそうに笑う。

「ボース、だらしねーぞ」
「うるせえ!」
「恭弥も無事でよかったな!」

みんなに愛されている、ディーノ。
そんな彼を常に傍で支えてきた右腕の男をちらりと横目で見やりながら、雲雀は今回だけだと心の中で繰り返した。らしくないことをしたのは自覚している。

ディーノの傍にいて群れの筆頭を連ねていたのには違いないのに、彼にはなぜか傍にいられても名前を呼び捨てにされても不快と感じなかった。
なぜなのか、など低俗なことを考えたことはない。けれど、その理由は考えるまでもなかった。

記憶の片隅に残る幼い記憶があまりにも彼と重なるから。
それがほんの少しだけ――懐かしく心地よかったから。

(くだらない、感傷だ)

だから今まで言おうとも思わなかったし、これからも言うつもりはない。
ディーノの傍にいる腹心の男。
キャバッローネ家の右腕。
草壁の飲み友達――これ以上に情報が加わることはない。

雲雀は滅多にしない思い出し笑いをしながら、前を歩く参謀の後に続いた。


*Buon Compleanno!*

2012.7.21

ロマーリオ、おめでとう!
いつまでも素敵な参謀+右腕でいてください!




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