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「おししょさま、おししょさま」

キッチンで風が食事の支度をしていると、いつもより早くイーピンが目をこすりながらやってきた。

「イーピン。もう起きたんですか」
「いい、匂い」

くんくん、と鼻を突き出す少女の姿に風が苦笑いを浮かべた。
いつもの朝食と並行して作っていたものが、レンジの中から芳しい香りを漂わせ始めたのだ。匂いに誘われて目を覚ましたのだろう。

「起こしてしまいましたか、すみません」
「ケーキ!」
「ええ。今日は誕生日ですから」

風の言葉に少女はしばらく考え込み――やがて、ぱあああ、と顔を綻ばせた。

「リボーンの誕生日!」
「ええ、そうです。イーピンもリボーンは好きですもんね。プレゼントも用意してたんでしょう」
「!」

イーピンはぱたぱたぱた、と台所を出て行くと、直ぐに何かをもって戻ってきた。綺麗にラッピングされたそれは、小さな体で抱えるのが精一杯なほど大きなプレゼント。
イーピンのお小遣いだけで買えるはずも無いそれは、半分は風が出資したが、聡明なイーピンのこと。きっとリボーンが喜ぶものを選んだに違いない。

「リボーンも喜びますよ。夕方には来れると言ってましたから、イーピンも手伝ってくれますか?ケーキは用意できましたが、買出しや飾りつけもありますし」
「はい、おししょさま!」

くるん、と大きな瞳を輝かせて笑う少女に、風も自然と笑みをこぼす。
そしていつものように食器棚から、二人分の食器を用意し始めた。

普段は何を考えているか分からない、無敵と恐れられているアルコバレーノ。マフィア界の最強であるヒットマン。
そんな彼でも、落ち着ける場所がある。

『ここに来ると、嘘みたいだな』

自分がヒットマンで、誰からも脅威の存在として常に狙われている身なのが。それ故、巻き込まないようにと最初は躊躇していたリボーンも、風の強さとイーピンの無垢な愛情に次第に絆されていった。

『私を誰だと思ってるんですか。それに、あんなにも慕っているイーピンを裏切るのは許しません』

そうだな、と苦笑いを浮かべて。

『風は強いな』
『ええ。あなたが思うよりはずっと』

だから、決めた。
彼に誇れる自分でいようと。彼とイーピンのために強くなる――それが、強さの源。誰にも汚されないように。

「おししょさま、用意できました」
「ありがとうございます。では、朝食にしましょう」
「ハイ!」

元気よく席に着くイーピンに続き、風は窓の外を見やった。今日は天気も良いから、散歩がてらいろんなものを買いに行こう。そして、リボーンの好物をたくさん作るのだ。
目を丸くするほどのご馳走に、とっておきのワインとプレゼントも添えて。

(そう、リボーンがびっくりするくらい、たくさんの)

せめてこの場所にいる間だけは、落ち着いて寛げますように。
背中を気にせずに預けてくれますように。

ささやかな願いを込めてそう願っていると、レンジがチン、と派手な音をたてて鳴り響いた。


→リボーンside




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