炎の刻印(2316/設定パロ) ※雲雀さん16歳、ディーノさん23歳 ※雲雀さんはキャバッローネで修行中 ※ディーノが10代目になった直後の設定パロ * 雲雀が中学を卒業しイタリアのハイスクールへ進学を決めたと同時期に、多くの事を学ぶのに最適だと、キャバッローネ邸に身を寄せるようになってからもう半年が過ぎようとしていた。 イタリアでの生活は日本と大きく違い最初は戸惑いもしたが、ディーノやロマーリオを始めとしたファミリーの支えもあり大分慣れて来た。マフィア社会における掟や薬物、銃機器などの扱いなど身体と頭に徹底的に叩き込む。ロマーリオには呑みこみが早すぎるとからかわれる事もあったが、日本にいた頃とは違い人間関係においてもそれなりにこなすようになった頃。 ディーノの様子が違うことに気付いたのはほんの偶然だった。 毎晩ディーノは家庭教師だと称し、雲雀の部屋を訪れる。そんな建前も最初のうちで1ヶ月過ぎる頃には世間話しかしないようになっていた。 そんな今日も一緒に珈琲を飲み、彼のつまらない話に耳を傾ける――はずだったのだが、いつもは真っ直ぐな強さの灯る眼差しの奥に違和感を感じた雲雀はディーノの左腕に目を瞠った。そこに映し出されていたのは。 「それ」 「え?――ああ、これな」 特に隠すでもなく、ディーノはシャツを腕まくりして露わにする。 いつもは白く意外にごつごつした腕を一面に覆うのは、跳ねる馬と内側から溢れるような炎を模した刻印。 それは、ボスにふさわしい者になった時に浮かび上がるもの――だと赤ん坊に聞いたことがある雲雀は、じっとそれを見つめた。 「ボスに、なるの」 「ああ。代替わりはまだだが、近いうちにそうなるだろうなぁ」 「そう。それは、おめでとうと言うべきなのかな」 「…普通はそうだろうな」 自分の事なのにディーノは遠くを見やり、息を吐く。それの意味を雲雀はいやというほど知っていた。 昔から彼は、優しかった。マフィアにしては甘すぎて、他人の痛みに弱い。ただ彼を囲むファミリーの存在だけが、ディーノを壊さずに強くさせていた。 だからきっと迷わなかったのだろう。それはわかる。 けれど、雲雀と違い戦うことを好まないディーノにとって、マフィアと言う場所は酷過ぎる。 「恭弥」 名前を呼ばれ顔を上げると、予想通りの困ったような顔にぶつかった。 「俺がボスになるとおかしいか?」 「どうして、そう思うの」 「変な顔してるから」 「そんなことないよ」 「そうか?」 「しつこい」 雲雀が強く言うと、ディーノはそれ以上言ってこなかった。きっと雲雀の葛藤などお見通しなのだろう。 そんなところが悔しくて、それでいてディーノらしいと思う。 「あなたはどうなの。浮かない顔して」 「誰が喜んでなるんだよ、こんなもん」 「ヴァリアーの連中は喜んでなるだろうけどね」 実際その地位をかけて戦ったこともある。それも今となっては遠い話だ。 「だけど、あなたの気持ちもわかる。だから安心してよいよ。僕がここにいる間は心配しなくて良い」 「それは、心強いな」 「今だけはね」 ディーノが大事にしているファミリーは、守りぬく。たとえ何があっても、雲雀の心がここにある限り。 「あなたが少しでも間違った道へ進んだら容赦なく咬み殺してあげるから」 「ははっ。恭弥らしい究極の口説き文句だな。いいだろう。受けて立つぜ」 ようやくディーノの表情に笑みが灯った。 決して彼に守られたいわけでも、庇護されたいわけでもない。 雲雀の望みはただ一つ。 ディーノが迷うことなく歩めるように。 その綺麗な手が理不尽な血で染まっても心まで汚れてしまわぬように。 ファミリーの願いを心に焼き付けた。 2012.04.20→2012.05.31 |