はっぴーでいず(雲誕/3225/animal) 「ピイ!」 イタリアのシチリア北部。 ある晴れた新緑美しい季節に、キャバッローネ邸を訪れた客人は、意外といえば意外な組み合わせだった。 ボスであるディーノの執務室デスク上にちょこん、と座っているのは、黄色いふわふわの羽を纏った小鳥とそれよりも一回りは大きいがつぶらな眼差しと愛らしい表情を醸し出しているはりねずみ。 もちろんディーノも良く知る二匹である。 「…ヒバードと、ロール?」 「ピイ!」 「クピ」 ディーノが近寄っても、二匹はじーっと前を見据えたまま微動だにしない。 それを一部始終見ていたロマーリオは呆れたように言い放った。 「ずっとこんな調子だぜ、ボス」 ――野暮用で綱吉の家を一人で訪れた際に、ロマーリオから珍しい客人が来ていると連絡があったのが1時間前のこと。 一体誰だと急いで戻ってみれば、そこにいたのはディーノの恋人でもある雲雀のペットのヒバードとロール。いつもなら絶対に雲雀の側を離れようとしないロールがこんな所まで足を運び、ディーノを待っているという事態がとにかくおかしい。 「ロマ、なんなんだこれ」 「しらねぇよ。とにかくボスに用があるみてーだから、後は任せるぜ」 「いや、任せられても…」 言いながら視線を向ければ、ヒバードがぱたぱたとディーノの元へ飛んでくる。口にしているのは、薄紫の小さな花びらだった。ちょうど壁際に生けてあったものをくわえてきたらしく、それをディーノの前にぽとりと落とすと、 「ヒバリ、アゲル!」 「恭弥?あげる…って、ああ、誕生日にか?」 「クピ」 代わりにロールも小さく頷いた。 確かに今日は雲雀の誕生日だ。イタリアと違って、日本では周りのものが祝う習慣があるのも知っているし、この10年間はディーノだってずっと雲雀が喜びそうなものを贈り続けていた。だから、ヒバードとロールも雲雀のために何かをあげたいという気持ちは分かる。恐らくそれのために自分の手を借りたいーーというところだろう。 ディーノは二匹を交互に見やると、苦笑いを浮かべた。 「本当に恭弥のことが好きなんだな、お前ら」 「スキ、スキ!」 「キュウウ」 手を差し出せばすり寄ってくる二匹に、思わず口元を緩ませる。 「まあ、お前達からなら恭弥も喜ぶかもな。なぜか小動物には優しいし」 だが、誕生日プレゼントといってもディーノが買い与えたのでは意味がない。かといって、二匹が自力で用意できるものと言えば限られてくる。 「ヒバードはなにをあげたいんだ?」 ヒバードは大きな口をあけたかと思うと、いきなり校歌を歌い始めた。 雲雀が教えたというそれはどことなく音程がずれている気もするが、聞いていて朗らかな気持ちになれるのは確かだ。特に並盛愛が飛び抜けている雲雀ならきっと喜ぶだろう。 となると、問題なのは… 「クピ」 「ロールは何かできるのか?」 「キュキュ」 「なにをあげたい?」 「クピー」 「…ロマ、通訳」 「できるわけねーだろ」 人の言葉を話すヒバードのことは何となく理解できるが、さすがにはりねずみと会話を成立させるのは困難だ。 すると隣で校歌を練習していたヒバードが、 「ロール、オウタ!オウタ!」 「いや、ロールには無理だろ」 ヒバードみたいに人間の言葉を喋ることが出来ないロールには校歌を歌うことは出来ないだろう。 「キュウゥ…」 「ナカシタ、ナカシタ」 見ると、ロールのつぶらな瞳から涙がこぼれた。ディーノの服にしがみつきながらキューと泣いている姿を見るといたたまれない気分になった。 「お、おい。泣くな」 「キュキュキュ」 ディーノがあやしても、ロールは声を出して泣き出してしまった。 「ボス、はりねずみって泣くのか」 「しらねーよ。だけど、泣いてるんだから泣くんじゃねーのか」 何といってもこんなかわいらしい形をしているとはいえ、雲雀の匣兵器である。 「ロール、分かった。他のを考えてやるから泣き止め。な?」 「クピピ!」 だが、ロールは激しく首を振った。 「や、だから…歌は無理だろ?『クピ』とか『キュー』とかしかいえねーんじゃ…」 「ハネウマ、ハネウマ、ウタ、ウタ」 「俺が教えるのか?」 「オシエル、オシエル!」 ヒバードの言葉に、ロールもキュ、とディーノを見上げた。 「クピクピ!」 「いや、だから…」 どう考えても無理だろ。 二匹にせがまれて、ディーノは勘弁してくれと頭を抱える。確かに雲雀が喜ぶと言えば、校歌くらいしか思い当たらない。なにせ、何が欲しいかと訪ねても「現金」だの「新しいリング」だの色気のない答えしか返ってこないのだ。 だが、それなりに小動物を可愛がっているのは知っている。それなら人並にその気持ちだけでも嬉しいと思うのではないだろうか。乱暴ものでわが道を行く雲雀も、一応は人の子である。 「ロール、恭弥のことは好きだよな?」 「クピイ♪」 「それなら、その気持ちだけで十分だ。どうしても何かをあげたいというのなら、思ったままを伝えれば良い」 「クピ?」 「俺にはわからねぇけど、恭弥にならわかるんだろ?」 「オメデト、オメデト!」 「そうそう。ほら、ロール、言ってみな」 ディーノが促してみれば、ロールは少し考えた後、 「キュ、クピ!」 「ヒバリ、ダイスキ」 ロールの言葉を通訳したのは、ヒバードだ。 「ああ、それで良いんじゃないか?きっと喜ぶ」 「ヒバリ、ウレシイ!ヒバリ、ウレシイ!」 ロールはヒバードとディーノを見上げると、嬉しそうに小さく鳴いた。どうやら雲雀への誕生日プレゼントに満足したらしい。そして、何かに気づいたように扉の向こうへ視線をやると、パタパタと走り出す。 「なんだ?」 「ヒバリ、ヒバリ!」 続いてヒバードも後を追い、ディーノとロマーリオは顔を見合わせた。 いったい何事かと思えば、しばらくしてから二匹を引き連れて姿を現した青年に納得する。 「恭弥」 嬉しそうに笑顔を浮かべるディーノとは対照的に、淡いパープルのシャツに黒のジャケットを羽織った雲雀は散臭そうな眼差しを向けてきた。 「どうしてこの子たちがここにいるの」 「おい、いきなりそれかよ。言っとくけどこいつらがここに来たんだからな」 「この子たちが?どうして」 確かにヒバードはまだしも、ロールがディーノの元を訪れることはまずない。 重ねて告げようとした矢先、遮ったのはロールだった。 「クピ!」 「ん?なんだい」 「キュ、キュ」 「ああ、それで?」 ロールが必死に言葉を紡いでいる間、雲雀は喋りやすいように耳を寄せている。その様を見る限り、ボンゴレ最強の守護者であり、かつて「最恐の不良」と恐れられた雲雀恭弥と同一人物とは思えない。 「クピー♪♪」 「そう。ありがとう、ロール。嬉しいよ」 今まで見せたことのないような笑顔を浮かべると、今度は肩に止まっているヒバードが雲雀の名を呼び、校歌を歌いだした。 その調子に合わせて、ロールも「クピ」とか「キュ」とか合いの手を挟む。歌い終えた二匹が幸せそうに雲雀に擦り寄る姿を見て、雲雀はもちろんディーノやロマーリオにも自然と笑みがこぼれた。 それだけであたたかくなれる気持ち。 少しずつ、少しずつディーノに近づくその想いは確かに雲雀が抱いている大切なものだった。 「恭弥、誕生日おめでとう」 ディーノが祝いの言葉とともに額に軽く口付けを送れば、雲雀はくすぐったそうに肩を竦めた。 「…なんか、変だね」 「なにが?」 「お金じゃないのに、欲しいと思ったのは初めてだ」 校歌にしても、言葉にしても、愛情溢れるキスにしても。 「それは、良い事だな。もちろんプレゼントも用意してるけどヒバードとロール効果か?」 「違うよ。確かに少しはそれもあるけど…ロールが言っていた」 「ロールが?なんて?」 雲雀はロールと会話出来るようだが、ディーノには何を言っていたか分からない。てっきりアドバイス通りに雲雀への気持ちと祝いの言葉を伝えたと思ってたのだが、違うのだろうか。 「そうだね。あなたがロールの言葉が分かるようになったら、教えてあげるよ」 「や、それは無理だから」 「じゃあ、内緒。ね、ロール」 「クピ♪」 2人でいたずらっぽく笑う様を目の当たりにしてディーノは眉を顰めるが、直ぐに苦笑いを浮かべた。 「分かった。努力するさ」 「良い心がけだね」 「そうだろ?そんな俺にご褒美はねーの?」 子供のようにディーノが甘えれば、雲雀が困ったように笑うのを知っている。そして、続けてこういうのだ。 「満足させてくれたらね」 深く澄んだ黒い眼差しを伏せ、細いしなやかな腕が首に回される。 「ああ、もちろん」 ただ一人だけに向ける、蕩けるような眼差しで。 * 「…やれやれ」 そっと部屋を出たロマーリオと二匹は何かの連鎖のように繋がる幸せの和に、もう一度笑い合った。 「明日のボスの予定は真っ白にしねーといけねーかもな」 きっとこれから2人で会えない分の時間を蜜に過ごすだろうから。何度も何度もその想いを交わすように。 ――誕生日、おめでとう。 それは、みんなが幸せになれる奇跡の言葉。 自分がそこにいて良いという、幸福の証。 2012.05.06 イベントで配布した無配より。 アニマルと本気で接するボスが大好き! |