初恋〜ディーノとロールの攻防〜(2215/animal) 初恋だった。 出会った時から好きで好きでたまらない感情を抱いたのも、 どんな手を使っても手に入れたいと思ったのも、初めてだった。 だから。玉砕覚悟で告白して、彼も自分の事が好きかも知れないと返してくれた時は、すごく嬉しかった。 初恋は実らないと言うけれど、まさに晴天の霹靂。 ――だと、思っていたのに。 * 「キュウ!」 応接室に入ろうとしたディーノは、いつものように足元で威嚇するはりねずみに、眉を顰めた。 「またかよ、俺はお前の敵じゃねーっての」 「クピ」 はりねずみの名前は、ロール。 ディーノの恋人でもある雲雀の匣兵器で、気弱なくせに雲雀に必要以上に懐き、彼に近づくものには敵対心を露わにする。 今までそんな素振りを見せなかったのに、いざ甘い雰囲気を醸しだす様になってから何かを感じ取ったのか、ディーノの来室を一切許さなくなってしまった。 ここ数日、扉の前でディーノを追い返すのが日課となっている。 「あのな、いい加減中にいれてくれねーか?今まではなんともなかったじゃねーか」 「ギュギュ…」 ディーノが近づくと、ロールはさらに唸った。 ダメだ。雲雀のことが大好きだからか、確実にディーノを邪魔者として見ている。 確かにディーノが雲雀と一緒にいる間は、ロールの時間を奪う事になる。だから、ディーノを疎ましく思う気持ちは分かるが、大人しくひきさがるわけにもいかず、かといって強引にロールを突破するわけにもいかず――八方塞の状態だった。 現にもう何日も雲雀と話をしていないし、明日にはイタリアに帰らなければならない。 「ロール、頼むから入れてくれねぇか?」 「キュー」 最後の手段とばかりに頼み込んでも、そっぽを向かれた。 どうするべきか…とディーノが思い悩んでいると、今まで大人しく肩の上に乗っていたエンツィオがゆっくりと下に降り立つ。 「エンツィオ…?」 「クァ!」 エンツィオはディーノの問いかけにも目もくれずロールの前まで歩いていくと、いきなりじゃれ付き始めた。 「キュ?」 「クァッ♪」 そんなエンツィオに、ロールも興味を示し最初は臭いを嗅ぐだけだったそれが、次第に顔を摺り寄せたり甲羅に乗りだす。 すると、応接室の奥からヒバードも羽音を響かせて飛んで来る。 「アソブ、アソブ!」 「クァ!」 ロールはヒバードとエンツィオを交互に見やり、「クピピ!」と嬉しそうに鳴きながらその場を離れた。 途中ディーノを振り返ると迷う素振りを見せたが、ヒバードとエンツィオとの遊びを優先したらしい。そのまま3匹で仲良く遊び始めた。 「――遅いよ」 いつの間にか扉に凭れかけるようにして立っていたのは、元凶の元でもある雲雀だった。 「仕方ねーだろ。大体、誰のせいだと…このまま二度とあえねーかと思ったぜ」 「大げさだよ。でも、エンツィオのお陰だね」 「ああ。しかし、ロールの騎士ぶりはすさまじいな」 雲雀が大事にしているはりねずみ――というのもあるが、ディーノ自身可愛く思っているだけに、ロールのガードはとても強固で破れない。 「それだけじゃないけど」 「え?」 「あなたが来るのを、すごく楽しみにしていたから。きっと遊んでくれていると思ったんだろ?」 「その割に威嚇してたけどな」 「興奮するとああなるんだよ」 「…わかりづれぇ…」 机の上で遊んでいるロールを見やりながら、ディーノは肩で息を吐いた。 「とりあえず、やっとゆっくりできるわけだ」 「僕もまちくたびれた」 それならフォローをしてくれれば良いのに、と思った矢先。 大人しく遊んでいたロールがヤキモチを焼くように「キュウっ」と派手に鳴いた。 そんな応接室の昼下がり。 風紀委員長がマフィアのボスと密会していると噂が流れていることを、二人はまだ知らない。 fin 2012.05.03 初恋プチで配布したペーパーより。エンツィオはディーノさんのためなら頑張る子です^^ |