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「う…ん」
「気が付いたか?」

目を覚ますと、安堵の息をこぼすコロネロの顔が飛び込んできた。

「ここは…?」
「医務室だ。シャマルのやつはいないがな」

辺りを見回すと確かに見慣れた風景だった。

「気分はどうだ?痛いところはないか?」
「…少し身体が痛いですけど、大丈夫です」
「打ち身が少しあるからな」

額にぺたり、と手をあてると「熱はないな」と安堵の息を漏らす。

「今日は一日大人しくしてろよ」
「あの、記憶が飛んでるんですけど…何がどうなったのか」

確か小火が起きて、窓から落ちそうになった所をヴェルデが助けに来てくれて。

(そうだ、リボーンが…)

「リボーン!」

風は慌てて飛び起きると、節々に起こる痛みに顔を顰めた。

「っ…」
「ああ、ほら。急に起き上がるな」

コロネロが慌てて風の身体を支えるが、落ち着いてなどいられない。

「リボーンは大丈夫ですか?あんな距離から…」

自分が無事なら、彼は相当のダメージを受けているはず。
いくらリボーンが無敵といえど、元は生身の人間なのだ。

「リボーンなら大丈夫だぜ。後の事を全部やってくれてる」
「え?」
「傍から見れば大丈夫じゃないみたいだけどな。肩を脱臼、足を捻挫。とはいっても、聞くようなうやつじゃねーし」
「そんな…無茶です!」

慌ててベッドから降りようとする風を、コロネロは強く抑える。

「お前も安静だぞ、風。それにリボーンなら大丈夫だ。確かにヤツは無理ばかりするが、自分を過信しないっていう点では信じられるからな」
「…でも」

自分のせいで――と思うと、ゆっくり寝てもいられない。
そんな風の心を読んだように、コロネロは違うと首を振った。

「どう考えてもあれはヴェルデのせいだろ。今はこってり学園長に絞られてる」
「…そうですけど」

確かに元を正せばそうなのだが、やはり自分が怪我を負わせてしまった事実は消えない。

「それにリボーンも気にしてたぜ。自分のせいで巻き込んだって」
「そんな、それは私が…」
「だろ?リボーンも同じだ」

諭されるように言われて、風は口を噤んだ。

「…同じ?」
「二人とも互いを想う為に自分を卑下する必要はねーだろ。それに自分のせいでって思うより、相手のために何かが出来たって思うほうが前向きだと思うけどな」

相手の為に何かが、出来たと思うこと。
確かにそれはコロネロの言うとおりかもしれない。

「…そうですね。何かが出来たとは思わないですけど」
「風はそれでいいんじゃねーか?それより、今はゆっくり休め」
「はい」

コロネロはそっと風をベッドに寝かせると、静かに部屋を出て行った。
訪れた静寂と闇に包まれて、瞳を瞑ると自然と心地よい睡魔がやってくる。

(リボーン…)

名前を呼んで顔を浮かべると、夢の中でリボーンが笑ったような気がした。





さらりと頬を撫でるあたたかさに心地よくて目を覚ますと、リボーンが安堵の笑みを浮かべていた。

「起きたか」
「リボーン…おはようございます」

辺りを見回すと、窓の外はまだ明け方なのか仄暗い。

「気分はどうだ?」
「大丈夫です。リボーンこそ、怪我の具合は…」

見る限りいつもとは変わらないが、無茶をするリボーンの事。表面だけで計ることはできない。
そんな疑わしい眼差しを向けると、肩を竦められた。

「俺は大丈夫だぞ。あれくらい大した事ねぇしな。それより今回は悪かった」
「え?」
「ヴェルデだ。まさか薬まで持ち出すとは思わなかった。だが、今回ばかりは反省してるみてえだ」
「いいえ。結局ヴェルデも助けてくれましたし…ちょっとスリリングでしたけど」

小さく笑みを刻む風に、リボーンも同じように頷いた。

「だな、俺も本気で焦った」

風が落ちそうになった時は、考えるよりも先に身体が動いていた。自分でも考えられなくらい、咄嗟の行動だった。
そんなリボーンの姿を見たいと思っていたヴェルデにとってはある意味成功したといえるが、風をあんな目にあわせた代償は大きい。
もちろんそれなりの制裁は加えるつもりである。

「もう、あんな無茶するな」
「…すみません。心配、かけました」
「いや。悪いのはやつらだからな」

風に落ち度はないといえ、リボーンに迷惑をかけた事には違いない。全く気にするなという方が無理な話だ。
そんな風の性格を充分に知っているからかリボーンもそれ以上は言わず、漆黒の髪を長い指先で絡めとりながら優しく撫でた。

「とりあえず、無事で良かった。まだ顔色が悪いからもう少し寝とけ」
「ええ…リボーン」
「ん?」
「一つ、お願いがあるんですけど」
「何だ?」

誰にも見せないような甘い表情を浮かべるリボーンに、今まで張っていた緊張が溶けていく。
固かった心も少しずつ、優しく、やわらかく。

「少しだけ、そこにいてください」
「風」
「少しだけです」
「――ああ」

躊躇いがちに紡がれるそれに力強く頷くと、風はようやく笑顔を浮かべた。

「ずっと、ここにいるから。安心して休め」

心地よい響きを受けて、風はそうっと目を閉じた。
肌を通して伝わるぬくもりと心地よい幸せに、いつまでもこの時間が続けば良いのに――と、願って。

2012.2.28




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