6 「リボーン!」 演習が始まってから1時間ほど経った頃。 B棟の視聴覚室で様子を窺っていたリボーンの所にやって来たのは、別棟にいる筈のディーノだった。へなちょこ体質ではあるが、リーダー気質で責任感の強い男である。 学園の御曹司という事もあり今回の件では中立を保っている立場で、生徒会側のリボーンに接触してきた事に、違和感を感じた。 「ディーノ、どうした」 「ああ。悪い、ちょっと気になった事があって」 「何かあったのか?」 いつもとは違う空気に、さすがのリボーンも姿勢を正す。 「ああ。10分前にA棟の救護室へ行ったんだけどな」 A棟の救護室といえば簡易医務室のはずだ。そこにはもちろん、風がいる。 「そしたら…中に誰もいなくてさ。どこか見回っているのかなと思ったら、コロネロが戻ってきて風はどこに行ったかっていうし。しばらく待っても戻ってこねーし、無線鳴らしても出ねぇしで…それと」 「それと?」 「ああ。部屋へ入る時になんか匂ったんだ。異臭というか…薬品にちかいものじゃねーかな、あれは」 「クロロフォルムみたいなか?」 「たぶん」 「で、コロネロは?」 「会議室を離れるわけにもいかねぇし、出来れば誰の耳にも入れたくないから、って。それで俺が」 傍受されている可能性があるなら、無線は使えない。ディーノに託したのは良い判断だ。 「ご苦労だったな。助かったぞ」 「風、どうかしたのか?」 「大丈夫だ。大体の見当は付いてる。やつらにしても、どうこうしようっていう気はないだろう」 「もしかして、ヴェルデか?」 まさか気づいているとは思わなくて、リボーンはほんの少し眉を上げた。 「知ってたのか?」 「ああ、恭弥が言ってた。今回の争奪戦、中等部が賭けしてるらしいぜ」 恭弥というのは中等部を牛耳る風紀委員長で、ディーノの弟子でもある。 普段は一匹狼な彼だったが、ディーノには懐いているらしく時々驚くような情報を持ってくる。 さすがはここ一体を仕切る雲雀だ。 しかし、まさか今回の事を賭けにされているとは思わなかった。 「風、連れてかれたのか」 「…わからねぇ。あれほどの男だからよほどの事がない限りは心配ねぇとは思うが…」 相手はあのヴェルデだ。 こちらには不利益な手の内をたくさん抱えている。さすがにこのまま無視をする訳にもいかないし、やられっぱなしも性に合わない。何より、いくら無茶なことをしないと分かっていてもヴェルデが何もしない――なんて保証はない。 彼らの行動は既に理解の範疇を超えているのだ。 「学園長に報告するか?薬を使うのはやりすぎだろ?」 「いいや。大事になると面倒だ。こっちで何とかするから、ディーノも戻れ」 「でも…」 「風のいる場所は大体見当が付く。ここは俺に任せとけ」 リボーンの力強い言葉に安堵したディーノは、ようやく頷いたのだった。 * ディーノが出て行くと、リボーンは壁によりかかるようにして肩で大きく息を吐いた。 (…っとに、厄介だな) ディーノにはああ言ったが、あの風が不意をつかれる事は考えにくい。となると――幻術を使われたとしか思えない。 マーモンとヴェルデが手を組んでいるとなると、厄介だ。 彼らは味方なら大いに頼りになる戦力だが、敵に回ればリボーンですら一筋縄でいかないくらい手強いし、形振り構わず挑んでくる所は始末に悪い。 ヴェルデは風への執着心以上に、リボーンを困らせたいのだろう。 とはいえ、すんなりと言いなりになってやるのも癪だ。だが、そうも言っていられない事態になりつつある。 その前に何か手を打たないとな…と暫くその場で考え込んでいた。 2012.2.28 |