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「はい、これで大丈夫ですよ」

教室の一角を借りて、風は最後の患者の手当てを終えた。
左足を捻挫したという生徒は昨年入ったばかりの新入生徒で、風の言いつけどおり大人しく戻ると言ってその場を後にした。恐らく上級生に唆されて無茶なことをやらかしたのだろう。

「みんなもあれくらい言うことを聞いてくれたら良いんですけどね」

部費がどれくらい魅力的かわかるが、限度というものはある。ここまで怪我人を出しては企画を催している生徒会に苦情がくるのだ。それは全て、生徒会長であるリボーンへ。
そんな事が分からない彼ではないだろうに、なぜこんな事をしたのだろうか。風はそれが不思議だった。
ただ面白そうだから――という理由で済む問題でもない。
ため息を一つ零した時、始まる前に手渡された無線機が小さく鳴り響いた。

「はい」
『俺だ』
「コロネロ。今どこにいるんですか」

コロネロがこの部屋を後にしたのは、始まってすぐの事。
あれだけ口酸っぱく誰かといるようにと言っていたのに、当の本人がこれである。正に舌の根も乾かぬうちに、だ。

『ちょっとアクシデントがあったんだ。変わりないか』
「こちらは大丈夫ですが、アクシデントって?」
『たいした事ないんだが、怪我の酷い生徒がいるから動かせそうにない。ここで少し治療していくから、そっちは暫く任せる』
「それは構いませんが…大丈夫なんですか」
『ああ。命に別状もないしただ歩くのが困難なだけだ』
「分かりました。こちらは任せてください」
『悪い。あと…』
「ヴェルデには気をつけますよ」

重ねて言うと、安心したように無線は切れた。
リボーンもコロネロも心配のし過ぎではないだろうか。ヴェルデなんてどこにいるかも分からないのに。
始まってからもう小一時間が経とうとしていたが、まだまだ先は長そうだ。リボーンからは連絡がないところを見るとまだ捕まっていないようだし、果たして生徒の中にリボーンの上手をゆくものがいるかどうかも怪しい。そういう意味では確かに、ヴェルでは注意すべき人物だろう。
ただヴェルデにしても、目的はリボーンだ。風に構っている余裕などないだろうし、ここはスタート地点に近い場所にある。そんな所まで戻ってまで何かをするとは、到底思えなかった。
そんな事を思いながらため息をついた、その時だった。

「!?」

急に室内の電気が消え、暗闇に包まれた。

「停電…?」

しばらく待ってみるが、明かりがつく様子はない。一時的なものだろうか。
何か報告があるかもしれない――と暫く待つものの、無線が入ってくる様子もない。あまり邪魔はしたくないが、緊急事態だからそうも言ってられないだろう。

「リボーン?」

だが、無線を入れても耳に残るのは雑音ばかり。何度繋げてみても結果は同じで、それならと思ったコロネロにも通じない。先ほどまで確かに通じていたのに、と不思議に思いながらも取りあえずはどういう状況になっているか確かめようと、手探り状態で扉に手をかけた時だった。
急に目を塞がれたかと思うと抵抗するまもなく強い力で腕を掴まれて――何かを嗅がされた。
突然のことで自衛するまもなく思いっきり吸い込んでしまい、意識が遠のく。

(な、なに…?)

体がぐらりと揺らぎ、完全に倒れこんでしまう前に耳元で囁かれた声。

「悪いな、風」

意識が遠のく中で、聞きなれた誰かの声がいつまでも残っていた。


2012.2.28




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