麻婆豆腐(リボ風/31巻末)


「ひどいです」

いつもはあまり恨めしい声を出さない風が、珍しく口を尖らせたのは帰宅してからの事だった。

基本的に赤ん坊の姿でいるときはリボーンは綱吉の自宅へいくのだが、今日はまだ時間も早いという事で風の住まいに場所を移したのだったが。

「何がだ?」

「わかってるくせに」

言葉のやり取りを楽しむように、リボーンは質問に対して聞き返す事が多い。

それが風の反応を楽しむものだと分かってはいるのだが、今の風にとっては一つや二つくらい言い返さないと気がすまなかった。

事の起こりは、数時間前。
場の流れで、リボーン、コロネロ、スカル、風の4人で麻婆豆腐の食べ比べをすることになった。
ただの食べ比べではない。激辛の、だ。

付き合いが長いリボーンは麻婆豆腐が風の好物であることも、甘口しか食べれないことも、辛口を食べると涙が止まらないことも知っている。
なのに、それを知っていてリボーンは止めてくれなかった。

いや、止めるどころか言い出したのは、リボーンだ。
どんな姿になっても、横暴でサドなのは変わらない。

「仕方ねーだろ、スカルが鬱陶しかったんだから」

それは、嘘だ。

きっとリボーンは風の事をいじめたくてしたに違いない。

すると、拗ねた風を宥めるようにリボーンがぴょこん、と隣に寄って来た。

「おめーも悪いんだぞ」

「私が、ですか?」

「コロネロやスカルとばっかり絡みやがって」

「…そんなこと、ないと思いますけど」

確かに周りの目が気になって、久しぶりに会えたというのにも関わらずリボーンから目をそらしていたのは事実だ。

まさか、彼が妬いていたなんて思いもしなかった。

「何嬉しそうな顔、してやがるんだ」

今度はリボーンが眉を顰める番だった。

「いえ、それは違います。でも…そうですね、私も悪かったです」

「悪いと思ってんなら今度からは他のやつを優先してんじゃねーぞ」

「はい」

あからさまな独占欲に、風は嬉しくなって満面の笑みで頷いた。

リボーンの嫉妬を直に感じることができたなら、あれくらい何でもないことのように思えてくる。

「じゃあ、風。舌出してみろ」

「は?」

「火傷したんだろ。見てやる」

唐突に顎を取られて、風はわずかばかり抵抗した。

「だ、だいじょうぶです」

「良いから」

「いえ、火傷じゃなくてただ辛いものがダメなだけで…」

「お前はバカか。こういう時くらい、察しろ」

不毛なやりとりはただの言葉遊びだと言わんばかりに、リボーンの顔が近づいてきた。

また何を勝手なことを、と言いたくなったが風はゆっくりと目を閉じた。

何を言われても、されても。

結局リボーンには勝てないんだと実感しながらあたたかい優しさと愛情がぬくもりを通じて伝わってきた。


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