11/17 旅行の計画(2215/animal/365)


「だから、行きたいだろ」

「くぁ!」

「エンツィオじゃないって」

「クァ!」

「鳥のくせに亀の鳴きまねするな。って、それはともかく温泉なんて行ったことないだろ?行きたくないか?俺も行ったことないんだけどさ、旅行でつれるのって温泉くらいじゃないか?あいつ結構好きそうだし」

「オンセン」

「そうそう。大浴場だと人がいっぱいいるからさ、離れで温泉を堪能出来る所もあって絶対気持ちよいと思うんだよな〜。お前もそう思うだろ」

「ピィ」


主が不在の応接室の片隅。

小さな小鳥相手に必死に説得をしているボスに耐えかねたのか、今まで沈黙を守っていたロマーリオが口を挟んだ。

「…ボス、あんた何やってんだ」

「何って説得だよ」

「ヒバード相手にか?」

「ちょっと、今こいつと話してんだから邪魔すんな。もう一押しなんだ」

振り返りもせずにディーノは部下を軽くあしらうと、再びヒバードを両手で優しく掴む。
昨日も同じように説得をして、後少しというところで逃げられた。キャバッローネのボスの名にかけて同じ過ちは繰り返すまいと真剣だ。

「な、お前が行きたいって言えばあいつも来るからさ。行きたいだろ」

「イキタイ、オンセン、イキタイ!」

ようやくヒバードが望む言葉を口にして、ディーノがガッツポーズを決め込んだ時だった。

肩の上にひんやりと鋼鉄の塊を当てられて、背筋がひんやりと凍る。
その正体は見なくても分かる――雲雀のトンファーだ。

「あなた、何してるの」

「恭弥!いい所に来たな。実は…」

「行かないよ、温泉なんて」

手にしていたガイドブックを手に満面の笑みを浮かべるディーノを、雲雀は一蹴する。

「えー、なんで!ヒバードも行きたいって言ってるんだぞ。な」

「ヒバリ、オンセン、イキタイ!」

雲雀の周りをくるくる飛び回るヒバードに、雲雀は頭を抱える。

「君、濡れたら飛べないよ。そんなに行きたいなら草津かどこかの入浴剤を買ってあげるから」

「入浴剤〜!?」

ヒバードには小さな桶さえ用意すれば簡易的な温泉気分を味わえるという事をディーノは予想しなかった。

「ウレシイ、ウレシイ」

温泉の意味も分からないだろうに、ヒバードは満足そうに雲雀の頭の上に落ち着いた。

「で、あなたは何がしたかったの」

「俺も入浴剤」

「は?」

「俺も恭弥の温泉に行きたい。ヒバードだけずるいぞ」

「頭でも沸いたの」

トンファーで殴りつけると、ディーノは涙目になりながらも子犬のように哀れみの眼差しを向けてくる。

背後に佇んでいたロマーリオはボスのあまりにも情けない姿に肩を落とし、雲雀は雲雀で胡散臭い眼差しを向ける。
はっきり言って雲雀でなくとも、今のディーノは鬱陶しい以上のなにものでもない。

「大体この子を使うなんて姑息だよ。それでもマフィアのボスなの」

「バカだな。これがマフィアだろ?利用するもんはなんでも使う」

「この子に何かしたら許さないから」

再びトンファーを構える雲雀に、ディーノは慌てて両手を突き出す。

「するかよ!だってお前、そうでもしねーと旅行に行ってくれないだろ」

「群れてるところはやだ」

「人がいなかったら良いのか?」

「1人もいなければね。後は綺麗でご飯が美味しくて広い所じゃないとやだ」

基本的に日本の施設はどこも狭い。のに、人が多い。

そんなところを探すのはほぼ不可能だろう――そう雲雀が言い切るとディーノは嬉しそうに笑った。

「よし!じゃあ貸切だな。そこに行くまでは専用ジェットを使うにして…従業員を買収してロマーリオに給仕を任せるか。今からだと抑えれるのは来月以降だから…」

本格的にプランを練りだしたディーノに、さすがの雲雀も口が挟めず「ねぇ」と隣の男に声をかける。

「マフィアのボスってみんなあぁなの?」

「…多めに見てやってくれ。育て方は…間違ってないはずだがな」

ディーノを小さい頃から良く知る腹心・ロマーリオはボスの浮かれ具合に頭を悩ませつつも幸せな様子に苦笑いを浮かべるしかなかった。


2011.11.17


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