緩やかな拘束(2215/事後/エロチカ) 朝、目覚めると背中にあたたかなぬくもりを感じた。 そういえば、昨日学校の帰りにディーノと屋上で軽く手合わせをした後、そのまま彼のホテルに泊まったのだ。 あたりを見渡そうと思ったが、身動きが取れない事に気づく。 がっしりと自分をホールドするのは、紛れもない彼の大きな腕。 体制が悪いとはいえ、寝ている相手なのに身じろぎさえ出来ないのがむかつく。 でも不思議とぬくもりは心地よくて――もう一度眠ろうかな、と思った矢先。 耳元に静かな、けれど艶のある声が降ってきた。 「おはよ」 「!」 吹きかけられるようなそれにびっくりして、思わず体を震わせたがすぐに何でもないように平静を保つ。 ディーノは時々、こんな自分の反応を見るのが楽しいらしくわざと不意打ちをしてくる。 (やっぱ、むかつく…) 振り返ろうにも至近距離で顔を合わせば彼を喜ばすだけだと知っていたから、このまま寝てしまえと目を瞑った。 「身体、大丈夫か?痛くない?」 「…別に」 眠る前の戯れを示唆されて、そっけなく答える。 思慮深い日本人と違い、イタリア人というのは慎みというものがないのだろうか。 道理で風紀が乱れるわけだ。 どうせ彼はそんな自分の反応も面白がっているんだろうけど。 「――今、何時?」 これ以上好き勝手にされるのが嫌で、話題を変えた。 今日は平日だから学校に行かなければならない。正直な所体は動かすだけでもだるかったが、風紀委員長が遅刻するわけにはいかない。 自分に絡みつく腕を何とか除けて起き上がろうとすると、ディーノがそれを遮る。 「もーちょっと」 「ちょ、ふざけないで」 「まだ6時前だから、大丈夫。学校まで送ってやるから」 「あなたの車は派手だから、やだ」 「レンタカーでも借りるさ」 心地よいまどろみに、ディーノは雲雀の身体をもう一度強く拘束する。 ディーノはこうと決めたら、なかなかそれを曲げてくれない。どうしても雲雀が嫌なことはしないが、そこに至るまでの労力を考えて、雲雀は諦めたように体の力を抜いた。 「遅刻したら咬み殺すからね」 その言葉を待っていたようにディーノは黒髪を撫でながら、露わになっているうなじにキスをしてきた。こういう時のディーノには、何を言っても無駄なのは学習済みだ。 確かに二人寄り添うのは、悪くない。 そんな事を口にすれば喜ばせるだけだから、絶対に言わないけれど。 緩やかな拘束も、たまにはいいもんだなと思いながら。 2011.11.16 |