3


結局ディーノが日本に着いたのは、3日の夕方だった。

「ボス、どうする?このまま並中に行くか」

「――いいや。ホテルに向う」

いつもならすぐ雲雀の元へ直行するのに、とロマーリオは怪訝そうに眉を顰めた。

「良いのか?」

「ああ。恭弥のとこには明日行くから」

投げやりな言い方に、ロマーリオは小さく息を吐いた。

(やれやれ…)

実は昨年末、草壁が珍しく連絡をしてきた。

もちろん雲雀とディーノのことだったが、彼がロマーリオを頼るなんて滅多にない事だから、それだけ二人の仲がこじれているのだろうと推測する。

案の定、雲雀はディーノに来て欲しいような素振りは見せているものの、性格上素直に言えずにいるから、ロマーリオからもそれとなく取り計らって欲しいと。

もちろん無理強いはしない。可能な限りで構いませんと切羽詰った声が痛々しいほどだった。

草壁も苦労性だが、ロマーリオにはその気持ちが痛いほどよく分かった。

過酷な運命を背負っている分――自分たちのボスには、可能なかぎり心穏やかに過ごしてほしい。

きっと草壁もそんな想いから同じ境遇のロマーリオを頼ってきたのだろう。

今まで沈黙を守っていたロマーリオだったが、これ以上は見てられないとばかりに口を開いた。

「ボス。あまり口は出したくないが…これだけは言っておく」

「なんだよ。恭弥のことなら…」

先手を打とうとするディーノだったが、ロマーリオは構わず続ける。

「――11月の終わりごろにな、ボスの不在を狙って恭弥が来たことがある」

突然のロマーリオの告白に、さすがにディーノも反応した。

「恭弥が?」

「ああ。ボスの嫌いな日本の食材を聞かれた。なんでだか、分かるか?」

「日本の、食材…?」

11月といえば一度だけ無理をして日本に来て、久しぶりに二人きりで過ごした時だ。

その時、何を話しただろうか。
確か、いつものようにディーノが他愛のない話をして、雲雀が適当に相槌をうったり時には聞き返してきたりしていたはずだが――

(…あ)

もう今となっては遠くなってしまった記憶を必死に呼び起こす。

そうだ。
あの時、雲雀は雑誌を読んでいて、後ろから覗き込んだディーノがそこに移っていた色とりどりの美しい料理に目を奪われたのだ。




『これなんていう料理なんだ?すっげー綺麗』

『おせち料理の事?』

『おせちりょうり、っていうのか?見たことねー』

『だろうね。日本の伝統料理の一つだけど、お正月の三が日にしか食べないから』

『三が日って…ああ、元旦から3日までだろ?それは前ツナから教えてもらった』

『ふーん』

『そっか、でもこれだけ綺麗かったらすごいだろうな!一度で良いから食べてみてー』




それから直ぐヒバードが二人の間に割って入ってきたので話はそれきりになったから、すっかり忘れていた。

ディーノの顔色が変わったのを見て、ロマーリオは肩を竦める。

「思い出したか?」

「なんで、俺にきかねーんだよ…」

そうしたら、変な邪推など抱えず済んだのに。

「ボスを驚かせたかったんだろ。ただでさえ誰かに借りを作るのが嫌いなあの坊主がボスには言うなと釘を指してきたんだ。それだけの気持ちがあったんだろう」

「だからって…」

「信じなかったボスが悪い。俺も草壁も口止めされてたしな。ま、実際口止めというよりは脅しに近かったがな」

最初から分かっていれば傷つけなくて済んだのに――なんて、詭弁だ。
ロマーリオの言う通り、雲雀を疑ったディーノに非がある。

「だけどさ、恭弥のやつ、草壁に作らせてるって言ってたんだぜ」

やはりまだ少しひっかかるものがあって、ディーノは口を尖らせた。

「草壁だけが作るなら、1人で済む話だ。恭弥も一緒なら、ボスの為に作ってるんじゃねーのか」

1人じゃ作れないから、草壁に協力してもらって。

「恭弥が…?」

「意外と凝るタイプだとは思うがな」

そして思ったより健気で、尽くすんじゃねーのか、とロマーリオが助言すれば、今までのもやもやが一気に晴れた。

(恭弥が、俺の為にお節料理を作ってくれてる)

その事実があれば、あとは何もいらなかった。

だから、草壁もあんなに必死になったのだろう。

雲雀の気持ちを無駄にしたくなくて。
落胆するのが見たくなくて。

ディーノは今までの自分を腹立たしく思いながら頭をかきむしると、

「ロマ、行き先変更」

「了解、ボス」

日本の日が暮れるのは早い。
もう日もすっかり落ちて辺りは暗闇に包まれていたが、なぜか雲雀はずっと待ってくれている。そんな気がした。


2011.12.31


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