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「あー…心配だ…」


ようやく仕事を終え、やって来る新年の準備で邸内がばたばたしている中、キャッバローネボスのディーノは日本にいる恋人の存在で頭がいっぱいだった。

今日は12月31日。
お節料理は1日に食べると聞いてあるから、今日も雲雀は草壁と二人で作っているのだろう。
想像するだけで、ありえないと分かっているのに変な妄想ばかりが頭を駆け巡る。


――あれからホテルで密な時間を過ごしたが、ベッドの中でどれだけ頼んでも聞き入れてくれなかった。
最終的には部下やロマーリオの事を持ち出されて半ば口ケンカをして帰ってきてしまったほどである。

確かに心が狭いと思う。
草壁相手に間違いが起きるはずがない事も知っているし、ああ見えて雲雀は道徳心に長けている。彼と出会うまでディーノの方がだらしなかったほどだ。

だが理性と本能は別で、頭で分かっていても不安が拭えないのも事実だった。

(だって、あの草壁…だもんな)

草壁が心底雲雀に心酔しているものの、邪な感情を抱くことは決してないと知っている。

現に雲雀と深い関係にあるディーノに対しても、同じように敬い接してくれるし、そんな彼に疑いの眼差しを向けるのは、正直侮辱しているとは思う。

あの二人は自分とロマーリオと同じくらい強い絆で結ばれている。他者が介入しても決して崩れることのない信頼関係。

だから不安で堪らないのだが、あれ以上口を挟めば雲雀は本気でディーノを許さないだろう。
それは分かっている。分かっているが…

(俺って、心狭い…)

その時、扉のノックが軽く叩かれた。

「――ボス」

「んだよ、今考え中」

扉の外からかかる部下の声にも生返事を返すディーノだったが、次の言葉に耳を疑った。

「そうか。日本から国際電話なんだが」

「それを先に言え!」

日本からかかってくるといえば、一人しか心当たりがない。
呆れ返っている部下から電話を引っ手繰ると、

「もしもし?恭弥!?」

『ディーノさん?草壁です』

耳に届いた声は、ディーノの予想を裏切るやや野太い声だった。
てっきり雲雀からだと思い込んでいたディーノは一瞬落胆するが、よく考えてみたら彼なら直接携帯にかけてくるはずだし、そもそも電話というツールを用いることはしないだろう。

「草壁か…。どうした?」

『すみません。お忙しいところ…あの、恭さんから聞いたのですがしばらく日本に来られないのですか』

そのことか、と昨夜のことを思い出した。

確かに仕事は落ち着いた。イタリアでの正月も1日くらいで、本来なら2日くらいに日本に行こうと思っていたのだが、どうにもお節料理のことが気になって、来日を延ばしてしまった。

お節料理というのは大体3日くらいまでに消費するものらしい。
だから、二人が作ったお節料理を見るのが嫌で、日本の正月が落ち着いてから顔を出すことにしたのだ。

その話を昨夜雲雀に電話したが、まさかもう草壁に話がいってるとは。

「ああ。ちょっとばたばたしててな。恭弥から聞いたのか」

『ええ。お仕事が忙しいんですか?』

「仕事は落ち着いたが…って、何かあるのか」

草壁がこんなにプライベートに介入してくるのは珍しい。
それに自分が日本に行かなかったからといって、関係がないはずなのに。

『恭さんは何も仰ってませんでしたか?』

「恭弥はなにも…」

だが言われてみると、ディーノがそう告げた後、雲雀はしばらく心もとない様子だったように思う。

改めて思えばという程度だが、そんな風に態度をあからさまにすること自体、珍しいことだ。

「草壁。なにか、あったのか教えてくれないか」

『恭さんがお話になってないなら私からは言えませんが、できる限り早くこちらに来てくださいませんか』

口を堅く閉ざす草壁に、ディーノはわからないばかりだった。

ただいくら追求しても草壁が雲雀の意思を尊重するということだけはわかる。これ以上問い質しても結果は同じだろう。
ロマーリオだってディーノが黙れといった案件に関して口を割ることは絶対にないからだ。

「…わかった。とりあえず早めに行くようするが、こっちの事情もあるから…正月が明けたころになると思う」

『――そうですか。わかりました、無茶なことをお願いしまして』

「いいや。じゃあ」

そのまま電話を切り、ロマーリオを呼び来日の調整をした。

カレンダーにしるしをつけて、ディーノはその時のことを思って、ため息をついたのだった。


2011.12.30


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