お花見をしましょう(3225/animal)


「お花見?」

キャバッローネ邸の庭の桜が咲き始めた頃、風流な景色を眺めながら、ディーノがふと言った。
当然、雲雀はむ、と眉根を寄せる。

「ケンカ売ってるの?桜嫌いなんだけど」

「病気はもう治ったんだろ?」

あれから10年。シャマルがもう問題はないと診断を下していたのを知っている。だが雲雀は不機嫌そうに手にしていた書物をデスクの上に置いた。

「気分は悪くないよ。ただ思い出すからやだ」

ぷい、と顔を背ける雲雀に、ディーノが再度口を開きかけた時だった。
大人しく昼寝をしていたヒバードが、急にぱたぱたと雲雀の周りを飛び始める。

「ヒバリ、サクラ、ヒバリ、サクラ!」

「なに?桜見たいの?」

「スキ、スキ!」

窓に映る桜の花びらが見えるのだろうか。ヒバードは雲雀の問いかけに答えるように嬉しそうに繰り返した。すると、雲雀の足元にいたロールも一生懸命よじ登り始めた。

「クピイ」

「ロールもかい?」

「キュウウ!」

ロールがそうだと言わんばかりに、可愛い鳴き声を漏らす。こうなると、雲雀が弱くなるのはディーノも知っていた。

「恭弥。どうする?」

「…あなたも、見たいの?」

「え?」

「桜。見たいの」

ロールを抱き上げながらじっと見つめる眼差しに、ディーノは呆然としながら頷いた。

「ああ、そりゃもちろん…」

「じゃあ、仕方ないね。3対1じゃ分が悪い」

「ヒバリ、ヒバリ!」

「クピ!」

雲雀の言葉に、2匹が嬉しそうに飛び回ったりすり寄ってくる。
雲雀とて桜の木が嫌いなわけではない。ただ思い出すのが嫌だっただけだ。

(けれど)

雲雀のお気に入りの彼らが一緒なら、もしかしたら記憶も上書きされるのではないだろうか、と朧気に思った。

「恭弥、安心しろ」

「…?」

「イタリアの桜は真っ白い花を咲かせて、小さな若葉が花の間に見え隠れしているんだ。きっと好きになる」

イタリアに花見の習慣はない。愛でるためのものではないが、キャバッローネ邸に植えられているそれは雲雀のためのものだ。いつか、強制することなく愛でる日がくればという願いをこめたもの。

「…そうだね。でないと、9年分のあなたの計画も無駄になる」

「知ってたのかよ、オイ」

「当たり前でしょ」

ディーノが毎年雲雀の好みを知り尽くしている草壁に頼み、弁当を作らせていた事も。
一番桜が美しく咲き誇る日を忙しい合間をぬり空けていたことも。

「だから、本当は群れるの嫌いだけど特別にあなたの部下も呼んでよいよ。せっかく作ったお弁当をこぼされたらたまらないからね」

笑顔でそう紡ぐ雲雀に、ディーノも苦笑いを浮かべた。

「ああ。今日は一番桜が綺麗に見える。きっとヒバードとロールも気に入るはずだ」

「ピヨっ」

「キュウ!」

二匹がディーノの言葉に返事を返すのを受け止めながら、2人は窓からこぼれる桜の映像を背中に小さくキスを交わした。





「草壁、これでよいのか」

「ダメです。ヒバードの黄色はもっと鮮やかだから入り卵はまず湯せんで――あっ、ヒバードの口はかにかまですよ!!」

「カニカマ?」

「日本の加工料理です。これで口を作るんです」

「口なんか適当でよいじゃねーか…」

ロマーリオが零せば、草壁はいつもの穏やかな表情はどこへやら、きつく睨みつける。

「ダメです!そんな適当な事をしては恭さんが喜びません」

「面倒だなぁ…」

「それが終わったら次はロール弁当ですよ」

「…エンツィオはねーよな…」

主人を思う草壁にいささかげんなりしながら、これもボスであるディーノのため。そう繰り返しながらロマーリオは黙々といり卵を作っていた。


2012.3.29


最後の「ヒバード寿司」は恋然る可きの加賀美様が日記にあげられていたヒバード寿司があまりにも可愛くて作り方を教えてもらい自分で作った所、その時にお話していた「みんなでお花見って楽しそう」から妄想がふくれあがったものです。私の残念なヒバード寿司はコチラですが、加賀美さんのヒバードはそれはそれはキュートです*加賀美さん、ありがとうございました!


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