無垢なキミ(2215+05)


10年バズーカーの試作品だと興味本位で打ったのが、そもそもの間違いだった。
いつものように派手な音と白煙が起こった後、ディーノの眼前に現れたのは5歳の恭弥と15歳の雲雀。

恐らくすぐ戻るだろうと高をくくっていたら、10分経っても20分経っても――半日以上経っても、2人の雲雀はそのままで。

仕方なく、キャバッローネ邸に連れ帰る事にしたのだが――



「きょーや?寝たのか?」

迎えに来た車に乗り込むこと数分。
隣から微かな寝息が聞こえてきて、ディーノは小さな顔を覗きこんだ。

案の定、無邪気に眠っている幼い恭弥に、自然と笑みが零れる。

(可愛い、なぁ…)

5歳の雲雀なんて写真ですら見た事がないから、想像以上のその可愛さに顔は終始緩みっぱなしだ。

もちろん今も可愛いが、子供の頃の雲雀だと思うだけで無条件な愛しさがこみ上げてくるから不思議である。

眺めるのも束の間。
程なくして、反対側からも同じような寝息が耳に届いてきた。

「恭弥?」

見ると15歳の雲雀も無防備にシートに身を沈め、眠り込んでしまっていた。

ディーノの前でも常に気を張っている雲雀が寝顔を見せるのは、とても珍しい。

(最近忙しかったみたいだし、疲れてたんだな…)

漆黒の髪をふんわりと撫でてやれば、くすぐったそうに身体を擦り付けてきた。
いつも意識的に自分を抑えている部分があるのだろう。こうして寝ている時に触れると、無意識に甘えてくる事が多々あった。

「恭弥…」

額に張り付いている前髪を除け、優しいキスをしてやると気持ち良さそうに口元が緩んだ気がした。

(こうしてると、可愛いんだけどなぁ…)

もちろん、ディーノにとってはどんな顔も可愛いのだが、殊更自分に甘えてくる無垢な表情は愛しくてたまらない。

そして今度はすやすやと気持ちよさそうな寝息を繰り返すやわらかい唇に手を伸ばしかけた時だった。

「ねこみ、おそうな」

「!」

突然の小さな声にびっくりして視線だけを移すと、5歳のきょうやが胡散臭い眼差しを向けていた。

「きょうや、起きたのか」

「だまれ、へんたい」

「…お前、本当に5歳か」

寝ている隙に、キスしたことを言っているらしい。
おでこにしただけで――とは思うが、確かに本人の承諾なしにしてしまっただけに後ろめたさは隠せない。

「あのな、これは別に襲ってるわけじゃなくてお休みのちゅーだ。分かるか?」

「うそだ。さっきへんなめでみてた」

「うるせー」

ああいえば、こういう。
本当に雲雀でなければ、相手にしていない所だが、そんな生意気な口調もディーノにとっては可愛くてたまらない。

きっとそんな事を口にすればまた変態、と罵られるのだろうが。

「……う、ん…」

そんなやり取りがうるさかったのか、雲雀が小さく身じろいだ。

「悪い、うるさかったか」

「………んん…。眠い……」

まだ寝ぼけているのか、雲雀は目をゴシゴシ、とこする。

「こら、あんまりこするな。まだ眠いなら寝てて大丈夫だから。着いたら起こしてやる」

「………うん」

そうしてまたばたりと寝こけてしまった雲雀に、ディーノと恭弥は顔を見合わせると苦笑いを浮かべた。


そんな、幸せな穏やかな午後の1日。

キャバッローネ邸で3人がしばらく過ごすことになるのは、また別のお話―――。

2012.1.2→2012.1.27


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