桃の節句に想いを馳せて(2215/animal)


「カワイイ?」

「うん、可愛いよ」

「クピイ!」

「ロールも可愛い」

そんな微笑ましいやりとりが交わされる光景に、応接室に足を踏み入れたディーノは絶句した。

中央に佇むのは天井に届くほどの、人形の山。
階段式に連なるそれは、この時期に日本でよく見かける「雛壇」だ。

「恭弥、おま、それ、」

「跳ね馬。来てたの」

「ひでーな、おい。っていうか、それなんだ」

「知らないの?雛壇だよ。今日はひな祭りだからね」

「…それは知ってっけど…」

ディーノが問い質したいのはなぜ応接室にそれがあるのかという点と、もう一つ。

「なんでロールとヒバードがお内裏様とお雛様になってんだよ!」

「違う」

「え?」

「知らないの?それは誤りだよ。本来内裏雛は男雛と女雛の1対を指すんだよ。元々は――」

「そんな豆知識どうでもいいっての。可哀想だろ」

ヒバードとロールは頭にリボンを載せて大人しく小さな座布団の上に座っている。さすがに着物は着てないが、見るからに窮屈そうだ。

「そんな事ないよ。嬉しいって。ね?」

「タノシイ、タノシイ!」

「キュキュっ!」

雲雀の言葉に、二匹が嬉しそうに鳴く。何をされても雲雀が満足そうな顔をするだけで嬉しいのだろう、この2匹は。
ったく、この雲雀マニアめ。

ディーノが恨めしそうにじとりと睨むと、目の前に差し出されるのは桃の花弁が浮かぶ、お猪口。
白い液体に映るはキラキラ輝く金粉。

「あなたには、これ。白酒っていうんだよ。好きでしょ、日本酒」

「へぇ、綺麗だな」

受け取り舌で舐めると独特な香りとほんのりした甘みりがふんわり口内に広がる。

「この子達も好きなんだよ」

「へー…ってか、飲むな!」

見てみるとロールとヒバードもぴくりとも動かず、雲雀から分けてもらった白酒をちろちろと舐めている。頭がふらふらしているところを見ると、早々に酔ったらしい。
ディーノは慌てて傍にあったジュースと入れ替えると、今度は雲雀の白酒も奪い取った。

「お前も未成年だろ!」

「飲む」

「ダメだって」

「ヤダ」

いつになく聞き分けの悪い雲雀に、ディーノもむきになってバランスを崩してしまった。結果、腕を掴んでいた雲雀ごと、そのままソファへ倒れこんでしまう。

「大丈夫か?悪い」

「これくらい平気だよ。それよりも…ねぇ、知ってる?ひな祭りって身を綺麗に洗い流す意味があるんだって。だから、女性のお祭りだって」

その昔、女性は不浄のものとされていた。
大蛇を宿してしまった女性が三月三日に白酒を飲んだ事で胎内の大蛇を流産させることができた――という言い伝えがある。
だから白酒を飲む習慣ができたのだ、と雲雀は潤んだ眼差しで懇々と説明をする。

「不浄ね…。確かに恭弥は不浄だな」

言いながら、目の前の項を軽く舐めると小さな身体は酒の手伝いもあって、敏感に跳ねた。

「ちょ、」

「白酒より良いものがあるぜ」

「なに?」

首を傾げて問う雲雀に、ディーノの手のひらがいやらしく背中から腰へ弄るように移動する。

「…っ、」

「恭弥、顔赤い」

「うるさい」

振り上げられた手をそのまま掴み、素早くキスをすると触れた唇から焼けるように熱い鼓動が伝わってくる。
軽く触れ合うだけのそれが、次第に深くなり腕の中の抵抗も和らいでいく。

桃の節句。

雲雀の言うように、不浄のものが穢れをなくすとしたら――自分は何度でも、穢すだろう。
その身体に刻み込むように、何度でも。

「…あの子たちが、起きる」

「酔っ払ってるから当分起きねぇよ」


応接室の中央に飾られた上段ですやすやと眠る小動物に邪魔されることなく、ディーノは言葉どうり幼い恋人を可愛がってやる事にした。
扉の鍵をかけたかなと思いながら、それでも愛しく抱きよせた身体を離そうとはしなかった。


2012.3.3→2012.3.15


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